幻の憲法改正原案 なぜ葬り去られたのか 〜シンポジウム「憲法論議におけるメディアの責務」から〜(楊井人文日本報道検証機構代表) - Y!ニュース(2016年8月28日)

http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaihitofumi/20160828-00060587/

幻となった憲政史上初の憲法改正原案
実は、これまでに憲法改正原案が国会に提出されたことが一度ある。民主党政権下の2012年4月27日、民主、自民など与野党7党、無所属あわせて10名の衆議院議員が「一院制」を実現するための憲法改正原案を衆議院に提出していたのだ(衛藤征士郎議員ホームページ、タイトル画像も同)。


法律上、憲法改正原案の提出・発議は、衆議院議員100名以上の賛成があればできる(国会法68条の2)。この改正案には、鳩山由紀夫元首相、海江田万里経産相原口一博総務相をはじめ、安倍晋三元首相、麻生太郎元首相ら、与野党を超えて大物議員が多数名を連ねて計120名が賛成(提出者を含めると130名)。発議(国会での審議)の要件を満たしていた(憲法改正原案)。


驚くべきことに、この憲法改正原案は、法律の要件を満たしていたにもかかわらず、「会派・政党の正式な機関承認を得ていない」という理由で、衆議院横路孝弘議長)に受理されなかった。調べてみると、「機関承認がない議案は受理しない」という衆議院独特の明文なき慣行が、この憲法改正原案にも適用されたようだ。この慣行(機関承認制度とも呼ばれる)は、長年にわたり議員立法を妨げる要因にもなってきた。
だが、メディアは「憲政史上初めて憲法改正原案が国会に提出された」という出来事をほとんど報じなかった。法律の要件を満たす議案が明文なき慣行によって葬り去られるという超法規的事態を、メディアは見て見ぬふりをした。だから、ジャーナリストも含めて国民の大半が知らないだろう。私自身つい最近、調べ物をしていて偶然知った。
仮にこの憲法改正原案が受理されても両院で3分の2の賛成を得て改正発議するには至らなかったかもしれない。だが問題は、法律の要件を満たす議案を国会(憲法審査会)で審議する機会が、「会派・政党の機関承認を得ていない」という理由だけで失われていたことであり、そうした事実が国民に知らされていなかったことだ。
超党派憲法論議を阻んでいるもう一つの要因は「党議拘束」だ。党所属議員は法案などの採決で党の方針に従って賛否を投じなければならないという、これも明文なき政党内規律である。党議拘束が解除された例は「臓器移植法案」の採決時(1997年4月)くらいしかない。党議拘束は、政党政治では当たり前のように思われるかもしれないが、イギリスを除き多くの国は採用していないという。これが憲法改正手続きにも適用されると、結局「3分の2」をめぐる政党間対決という構図で憲法改正審議が紛糾する(結末は強行採決ショー)だろう。
メディアは、「改憲勢力」をめぐる党派的攻防にばかりスポットライトを当ててよいのか。もっと「機関承認制度」や「党議拘束」といった民主主義の根幹にかかわる問題にも目を向けつつ、この国の民主主義、立憲主義を発展させるという見地に立った憲法報道を望みたい。

元朝日植村記者家族への脅迫ツイート事件で賠償が確定 「執念の裁判」と弁護団 – アジアプレス・ネットワーク(2016年8月29日)

http://www.asiapress.org/apn/author/japan/post-49876/

従軍慰安婦についての記事を書いた元朝日新聞記者を父に持つ当時17歳の女性が、ツイッター上の書き込みで精神的な苦痛を受けたとして、書き込みを行った男に損害賠償を求めた裁判は、8月19日までに被告が控訴しなかったため、慰謝料など170万円の支払いを命じる判決が確定した。(アイ・アジア編集部)

http://www.asiapress.org/apn/author/japan/post-49876/3/
弁護団長「匿名での誹謗中傷を牽制」
弁護団長の阪口徳雄弁護士がアイ・アジアの取材に応じた。

東京地裁で開かれた弁論期日で被告の姿を初めて見た。小柄な、中年男性だった。年齢は40代の半ばごろか。大人しそうな、それも中年の男性が、17歳の高校生にこんなひどい書きこみをするのか…。ネットという暗闇に向かっての書き込む威勢とリアル社会での被告の姿との落差に驚いた。ネット右翼と呼ばれる生の人物を見た一瞬だった」

阪口弁護士は初公判で見た被告の印象をこのように述べた。その上で、裁判の意義について次の様に話した。

「匿名の書き込みでも本人を特定できることを再確認できた。こういう卑怯な書きこみを許してはいけない。今後、匿名をいいことにネットを使った誹謗中傷を行おうとする人間を牽制する意味でも、この判決は意味がある」

関連サイト)
植村氏 雇用打ち切りも 北星学園大「脅迫で警備費増加」- 東京新聞(2015年10月24日)
http://d.hatena.ne.jp/kodomo-hou21/20151025#p8

(政界地獄耳)福岡市の3年後援拒否は「中立」か - 日刊スポーツ(2016年8月31日)

http://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/1702758.html
http://megalodon.jp/2016-0831-1333-05/www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/1702758.html

★人口約152万人の福岡市は、九州最大の政令指定都市だ。29日、同市は昨年、福岡市名義の後援を拒否し、今年は一転して認めた市民団体「『平和のための戦争展ふくおか』を成功させる会」主催の「平和のための戦争展」について「申請内容と異なり、特定の主義主張に立脚した内容が含まれていた」として後援を撤回したと発表した。西日本新聞などによると会場には「アベ政治を許さない」とのポスターや「戦争法案は廃止に」と題したパネルを展示。「憲法改悪反対」や「戦争法廃止」を求める署名ブースも設置されていたという。
★福岡市長・高島宗一郎産経新聞の取材に「行政の中立性を損なうものは後援できない。要領にのっとって厳正に対応する」とし、内規に従い今後3年間、後援を拒否するという。市のいうようにルール違反があったのならば後援撤回は理解できる。しかし向こう3年の根拠は何か。また中立性について市総務企画局の担当者は「国民的に議論が分かれるテーマであり、どちらか一方の主張をしている催事を後援すれば行政の中立性を損ない、誤解を生む」と説明。イベント全体を見た上で判断したというのが記事には記されている。
★3年間、市は受け付けないというのはペナルティーの意味合いがあるのか。また市がイベント全体を見てジャッジする意味がなかなか分からない。国民的議論があるものならば、それは市民にも関心があることであり、市は誤解を生むことを恐れるよりも、さまざまな考えを積極的に市民に示して、考える判断材料を提供すべきなのではないのか。3年間というのは、考えを改め反省するまで許さんという意味なのかと思ってしまう。市民のいろいろな声を逆に求める努力をせずに中立を声高に言う行政の立ち位置は、それほど中立なのかと思う。(K)※敬称略

関連サイト)
福岡市、戦争展の後援取り消す 「展示に政治的主張」 - 朝日新聞(2016年8月29日)
http://d.hatena.ne.jp/kodomo-hou21/20160830#p8

反原発のシンボル 泉田新潟知事が突然「出馬撤回」の背景 - 日刊ゲンダイDIGITAL(2016年8月31日)

http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/188900

原子力ムラはニンマリだろう。4選出馬を表明していた泉田裕彦新潟県知事(53)が30日、突如文書で“出馬撤回”を明らかにした。柏崎刈羽原発の「再稼働」を認めず、“反原発”のシンボルになっていた泉田知事に何が起こったのか。
この半年間、泉田知事は新潟県が出資する第三セクターの子会社によるフェリー購入をめぐり地元紙の「新潟日報」と対立。泉田知事は、出馬撤回の理由を「臆測記事や事実に反する報道が続いた。このような環境の中では十分に訴えを県民に届けることは難しい」としている。
地元紙からの攻撃だけでなく、新潟県内では“泉田包囲網”が出来上がっていたという。
新潟日報は今年に入ってフェリー問題をしつこく批判していました。新潟日報は泉田さんの政治手腕に疑問を持っていたようで、社内には“泉田嫌い”が蔓延していたといいます。新潟日報には東電が広告を出していた。さらに、今月には泉田さんと近い自民党県議が県連会長を辞任している。泉田さんは嫌気が差したようです」(新潟県庁関係者)
泉田知事の出馬撤回によって10月に行われる新潟県知事選は、すでに出馬を表明している全国市長会長の森民夫長岡市長(67)の当選が濃厚となっている。安倍官邸と近い森市長が知事に就いたら柏崎刈羽原発を再稼働させるのは間違いない。
泉田知事という“反原発”のシンボルを失った「反原発派」からは、森市長の対抗馬として地元出身の森裕子参院議員や田中真紀子元外相の出馬に期待する声も上がっているらしいが、肝心の民進党対立候補を立てるつもりがないようだ。
原発問題に詳しいジャーナリストの横田一氏は言う。
泉田知事と同じ経産省出身の古賀茂明さんにも待望論が出ていると聞いています。いずれの候補を出すにしろ、野党が協力しなければ勝つことは難しい。ここで協力できなければ何のための野党かと批判されても仕方がありません」
東電の高笑いが聞こえてくるようだ。

関連サイト)
この秋の新潟県知事選挙からの撤退について - いずみだ裕彦 後援会(2016年8月30日)
http://www.h-izumida.jp/topics/20160830.html

泉田裕彦新潟県知事が4選出馬を撤回。新潟日報批判で「東電との関係」に言及(UPDATE) - HuffPostJapan(2016年8月30日)
http://www.huffingtonpost.jp/2016/08/30/izumida-niigata_n_11771144.html

九州電力 川内原発一時停止の要請に応じずで調整 - NHK(2016年8月31日)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160831/k10010662181000.html
http://megalodon.jp/2016-0831-1405-25/www3.nhk.or.jp/news/html/20160831/k10010662181000.html

鹿児島県の三反園知事から、川内原子力発電所を一時停止し、安全性を再点検するよう申し入れを受けている九州電力は、一時停止の要請には応じず、10月から予定されている定期検査の中で対応していく方向で、調整を進めていることが分かりました。
鹿児島県の三反園知事は、熊本地震のあと住民の不安が高まっているとして、今月26日、九州電力の瓜生社長に対し、川内原発を一時停止して安全性を再点検することなどを要請しました。
これについて九州電力は、新しい規制基準の審査に適合しているという原子力規制委員会の判断を受けて稼働しており、安全性に問題はないなどとして、一時停止の要請には応じない方向で、調整を進めていることがわかりました。
川内原発は、1号機が10月から、2号機も12月からそれぞれ定期検査に入り、運転を停止する予定で、九州電力では、この定期検査の中で、三反園知事から求められている原子炉や格納容器などの点検をしっかりと行いたいとしています。
また、自治体の避難計画への支援体制の強化や、正確な情報発信などについても対応していく方針で、近く知事に回答することにしていますが、九州電力原発をただちに一時停止しない場合、三反園知事がどう対応するか注目されます。
原子力規制委「安全上問題ない」
原子力規制委員会の田中俊一委員長は31日の記者会見で、「熊本地震が起こったあと、何回か地震が起こるたびに安全確認はしていて、特に問題はないということを確認している。安全上の問題の観点からは、何も問題はないと思っている」と述べました。

もんじゅ計画作成せず廃液移送 - NHK(2016年8月31日)

http://www3.nhk.or.jp/lnews/fukui/3055204341.html
http://megalodon.jp/2016-0831-0919-10/www3.nhk.or.jp/lnews/fukui/3055204341.html

安全管理上の問題が相次ぎ、新たな運営主体を示すよう求められている、高速増殖炉もんじゅ」について、日本原子力研究開発機構は平成19年から去年までの8年にわたって、事前に計画を作成せずに放射性物質が微量に含まれた液体の廃棄物=廃液をタンクに移していたなどと発表しました。
安全管理上の問題が相次いだ高速増殖炉もんじゅ」について原子力規制委員会は、去年、いまの日本原子力研究開発機構に代わる新たな運営主体を示すよう勧告し、文部科学省が検討しています。
こうしたなか、原子力機構は、平成19年から去年までの8年間にわたって、廃液を濃縮する機器の点検などをする際、事前に計画を作成せずに放射性物質が微量に含まれた廃液をタンクに移していたなどと発表しました。
また、平成21年以降、廃液を移していたタンクは本来は使ってはいけない状態になっていましたが、使うために必要な点検を行わずに6年間にわたって廃液を移していたということです。
原子力機構はタンクの外観を定期的に確認をしていて、廃液が漏れるなどのトラブルはなく、周辺環境への影響はないとしていますが、このタンクを使用できない措置をとった上で点検計画を作成し、再発防止を図るなどとして原子力規制庁に説明したということです。

NHKの生番組で解説委員が反乱!? 7人の委員のうち6人が政府の原発政策を徹底批判する快挙! - litera_web(2016年8月30日)

http://lite-ra.com/2016/08/post-2532.html

8月26日深夜、NHKで生放送された討論番組『解説スタジアム』が大きな反響を呼んでいる。この日のテーマはズバリ「どこに向かう 日本の原子力政策」。NHKの7人の主要解説委員が、日本の原発政策を多角的に議論するという番組だが、驚くべきは、解説委員7人のうち6人が政府や原子力規制委員会、そして電力会社の問題点を徹底的に批判していたことだ。さらには「原子力再稼働を認めない」という驚きの発言まで飛び出していた。そのためネット上でも「国民必見」「解説委員の勇気か反乱か!」「NHKはまだ腐っていなかった」など絶賛されている。

http://lite-ra.com/2016/08/post-2532_3.html
....

しかし、不思議なのは、あのNHKがなぜこんな番組をつくることができたか、だ。たしかにNHKはもともと電力会社への広告依存がないため、原発については民放よりも踏み込んだ報道をしてきた。しかし、「政府が右といえば右」という安倍応援団の籾井勝人が会長の椅子に座って以降、政権に批判的な報道はめったにできなくなり、原発についても問題点を追及するような報道はほとんどしなくなっていた。それがどうして、ここまで踏み込むことができたのか。

http://lite-ra.com/2016/08/post-2532_4.html

「いちばんの理由は、この放送が上層部が厳しくチェックできる録画ではなく生放送だったということでしょう。しかも、籾井会長が来年1月の会長選で再選されることなく交代する可能性が高くなって、恐怖支配が少し緩くなっている。その間隙をぬって、良識派の解説委員たちが勇気ある発言をしたということでしょう」(NHK関係者)
もちろん、こうした番組が放送されたからといって、NHKの状況はけっして楽観できるものではない。今回の『解説スタジアム』にはたまたま良識派が数多く顔を揃えたが、報道局幹部や解説委員の多くは、籾井会長の動向にかかわらず、政権の顔色をうかがって官邸に尻尾をふり続ける“安倍政権の犬”のような連中がほとんどだ。
現に、今回の番組でも、“安倍首相とマスコミ幹部の会食会”の常連で“島田スシロー”の異名をもつ島田敏男解説委員は、原発の問題点を指摘するどころか、ほとんど議論に参加しようとしなかった。唯一、高速増殖炉もんじゅ」については「結論からいうと、高速増殖炉の事業はもう辞めるべきだ」と発言していたが、実はこれも、政府の「もんじゅ廃炉の方針転換を知って先取りしたのではないかと言われている。
「しかも、島田氏は番組の最後に原子力政策についての考えと提言を聞かれ、今回のテーマとはほとんど関係のない、テロ対策の必要性を力説していた。これも、安倍政権が9月の臨時国会で成立をめざしている共謀罪を意識してのものでしょう」(全国紙政治部記者)
しかし、それでも、今回の番組はNHKに安倍官邸の恐怖支配に屈しない良心が残っていることを証明した。深夜、生放送で見ることのできたこの勇気ある抵抗が広がって、NHKの報道そのものが変わってくれることを切に望みたい。
(伊勢崎馨)

ブルキニ騒動 人権大国らしからず - 東京新聞(2016年8月31日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016083102000135.html
http://megalodon.jp/2016-0831-0818-01/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016083102000135.html

イスラム教徒女性の水着「ブルキニ」をめぐり、フランスの自治体が相次ぎ禁止としたのは間違った対応だ。無効とした司法の判断に従うとともに今、本当に成すべきは何かを議論するべきだろう。
自治体側は禁止理由を「挑発的な宗教活動」と決め付けるが、それではイスラム教徒への差別や憎悪を助長し、社会の分断を深めるだろう。かえってテロを誘発しかねず、人権大国らしからぬ勇み足と言っても過言ではあるまい。
ブルキニとは、ムスリム女性の全身を覆う着衣「ブルカ」と水着の「ビキニ」を合わせた造語=写真、AFP・時事。頭から足首までつながった水着で髪や肌の露出を抑えつつ、体の線も出ないようゆったりしている。数年前に登場し、英国などでは非イスラムの女性が体形を隠すためや日焼け防止に着る場合もある。
政教分離を国是とするフランスは、イスラム教徒のシンボルであるスカーフの着用を公立学校などで禁止し、顔まで覆い隠すブルカは公共の場で禁止している。
問題のブルキニについては「イスラム国」(IS)などによるテロが頻発したことを受けて南仏の自治体が海岸での着用禁止に踏み切り、罰金を科したりビーチから追い出したりする例が起きた。七月にトラック暴走テロが起きたニースも禁止を決めた。
しかし、ブルカと違い、顔を覆っていないブルキニの禁止には「人権侵害だ」とする論調もあった。イスラム教徒らが禁止令の差し止めを求めたのに対し、行政裁判で最高裁にあたる国務院は「基本的自由に対する深刻かつ明白な侵害だ」と断じたのである。
判断は南仏の一自治体に対するもので、一部の自治体は撤回しない考えを示し、右派の政治家の中には禁止措置の法制化を目指す声もある。短絡的な禁止措置は問題をより困難にするだけだ。
フランスはイスラム圏旧植民地からの移民が二世、三世になり、国民の十人に一人の割合にまで達する。だが、移民への配慮を欠いた強引な同化政策が機能せず、しゃくし定規に政教分離を唱えても社会の分断を深めるばかりだ。
本来の人権大国の理念に立ち返り、移民を含めた国民の融和を進めることこそが望まれている。

今、憲法を考える(3) 明治の論争が試される - 東京新聞(2016年8月31日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016083102000134.html
http://megalodon.jp/2016-0831-0910-01/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016083102000134.html

大日本帝国憲法をめぐる枢密院での伊藤博文森有礼との論争は有名である。伊藤は初代首相、森は初代文部相となる重鎮だ。伊藤は憲法創設の精神を語った。
<第一君権ヲ制限シ、第二臣民ノ権利ヲ保護スルニアリ>
立憲君主制をめざしたので、君主の権力を制限して、国民の権利を保護すると述べたのだ。憲法で権力を縛る立憲主義の根本である。
森の答えが実に興味深い。
<臣民ノ財産及言論ノ自由等ハ、人民ノ天然所持スル所ノモノニシテ(中略)憲法ニ於テ此(これ)等ノ権利始テ生レタルモノヽ如ク唱フルコトハ不可ナルカ如シ>
生まれながらにして持つ権利は憲法で明文化する必要はないと主張しているのだ。弁護士の伊藤真さんに解説してもらった。
「明文化すると、明文化されていない権利が無視されることを恐れたのです。人間の持つ自然権は、すべてを書き尽くせません。基本的なことを書き、時代に即して解釈していく方が幅広く人権を守れると考えたのです」
自然権は十七世紀に活躍した英国の思想家ジョン・ロックらが主張した。権利を守るために契約により政府をつくる。もし、正しい政治がなければ、国民が政府に抵抗する「抵抗権」を認めた。さて自然権憲法に書くべきか−。
一七八七年の米合衆国憲法には当初なかった。九一年の修正条項で自由と権利が規定された。フランスの一九五八年の憲法でも規定がないが、前文で一七八九年宣言への至誠をうたう。フランス革命時の有名な人権宣言である。つまり、生まれながらに持つ自由と権利は自明の理なのだ。
「天賦人権説」という。日本国憲法もこの考え方に基づくが、自民党憲法改正草案は同説を採用しないと公言する。草案は「公の秩序」が人権より上位にくるような書きぶりだ。まるで国が恩恵として与える明治憲法の「臣民の権利」と同じだ。
作家の高見順は一九四五年九月三十日の日記に書いた。
<戦に負け、占領軍が入ってきたので、自由が束縛されたというのなら分るが、逆に自由を保障されたのである。なんという恥かしいことだろう>
明治の森有礼でさえ、自由と権利を「人民ノ天然所持スル」と述べた。人権宣言から二百年を超す今、天賦人権説への異論が出るとは、まことに恥ずかしい。

(筆洗)初期人類アファール猿人の化石が「ルーシー」と命名 - 東京新聞(2016年8月31日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016083102000131.html
http://megalodon.jp/2016-0831-0911-11/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016083102000131.html

四歳の男の子が絵を描いた。青色の空に金色の髪の女の子が浮かんでいる。父親が聞いた。「これは何の絵?」
男の子は教えた。「空にいるルーシーだよ。ダイヤモンドを着けて」。父親はこの話を元に幻想的な一曲を書いた。「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイヤモンズ」。ビートルズファンにはおなじみの逸話で、父親はジョン・レノンである。
一九七四年、エチオピアの渓谷。発見された初期人類アファール猿人の化石が「ルーシー」と命名されたのは、女性と判明したことと、発見の日、発掘キャンプで何度も流れていたビートルズのその曲にちなんでのことだという。
絵のルーシーは空中にいたが、約三百二十万年前のルーシーは落ちた。ルーシーの骨をCTなどで分析した結果、高い木から落ちて死亡した可能性があることが最近の研究で分かった。
直立歩行を手に入れたアファール原人の足の裏は人間とほぼ同じで、サルほどに木を握るのに適していなかった。<猿人も木から落ちる>。本紙の見出しだが、二足歩行の結果、木のぼりが下手になっていたと考えれば、<猿人も>ではなく、人間に近い<猿人だから>木から落ちた、ということか。
痛かっただろうか。われわれ人類が木の上を離れ、地上で暮らし、二足で歩き、両手を使い、やがて言葉まで手に入れたのはその落下のおかげかもしれぬ。

ロボット兵器 戦争をゲーム化させる - 毎日新聞(2016年8月31日)

http://mainichi.jp/articles/20160831/ddm/005/070/104000c
http://megalodon.jp/2016-0831-0914-09/mainichi.jp/articles/20160831/ddm/005/070/104000c

人の手を介さずに、人工知能(AI)を搭載したロボット兵器が自ら判断し、「敵」を殺傷する。そんな自律型ロボットによる戦争が現実になろうとしている。
イスラエル軍が、自動運転の軍用車を世界で初めて実戦配備し始めたことを本紙の取材に明らかにした。現状ではまだ遠隔操作だが、完全自動化も可能な状態だという。同様の兵器はイスラエルのほか、米国、中国、ロシアなど少なくとも6カ国に開発能力があるとされる。
人を殺傷しても、現場から遠い操縦室では被害者の苦しみも恐怖も感じない。攻撃の決断まで機械にゆだねることになれば、戦争を現実感のない「ゲーム」にしてしまう。
国際平和・人権団体などは開発中止を求めている。物理学者のホーキング博士らは昨年、自律型AI兵器の開発禁止を求めて1万2000人以上の研究者らの署名を添えた公開書簡を公表した。
こうした呼びかけに応え、非人道的な兵器を規制する特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW、123カ国加盟)の非公式専門家会合は今年4月、「自律型致死兵器システム」の規制について検討を求める勧告を採択した。12月のCCW再検討会議で承認されれば、来年から公式の専門家会合がスタートする。
しかし、規制対象の定義の段階から議論は難航しそうだ。民生用ロボット技術の開発が進み、AIによる自動運転車の実用化も近い。日本は兵器開発には反対だが、災害救助ロボットなどに使われる特定の技術を規制することには反対の立場だ。技術を軍事転用すれば「兵器」になるが、線引きは難しい。
遠隔操作する無人機(ドローン)など広義のロボット兵器は、すでに実戦で使われている。米国は自国兵の被害を減らすためにアフガニスタンなどで「対テロ戦争」に無人攻撃機を投入しており、規制に消極的だとされる。
米南部ダラスでは7月、警察官5人が死亡した銃撃事件で遠隔操作によるロボットが投入され、容疑者を爆殺したことが議論を呼んだ。警察官の危険を回避するためだとはいえ人道上の疑問はぬぐえない。
本来、人には人を殺すことへの心理的抵抗がある。それが、何の痛みを感じることもなく敵を殺傷できるようになれば、戦闘行為に歯止めがきかなくなる。AIのプログラムに「人道的判断」を組み込めばすむという話ではない。
自制なき技術開発は、従来の戦争の概念を大きく変えることになる。私たちは大きな転換点に立っている。規制の国際的な議論を急がなければならない。

(余録)広島の原爆ドームのように… - 毎日新聞(2016年8月31日)

http://mainichi.jp/articles/20160831/ddm/001/070/148000c
http://megalodon.jp/2016-0831-0915-41/mainichi.jp/articles/20160831/ddm/001/070/148000c

広島の原爆ドームのように、戦災の跡を残す建造物や、軍事施設の遺構などは「戦争遺跡」と総称される。第二次大戦末期、政府が長野市郊外に中枢機能の移転を図った「松代大本営(まつしろだいほんえい)」と呼ばれる地下壕(ちかごう)などもそうだ。
原爆ドーム核兵器の惨禍を、松代の地下壕は政府が極秘で退避を探っていた事実を、目に見える形で伝える。これまであまり存在が知られていなかったような遺構も、再評価する動きが各地に広がっている。
川崎市多摩区の現明治大敷地にあった陸軍登戸(のぼりと)研究所はその先駆け的な例だ。気球型の「風船爆弾」など秘密兵器の研究拠点だったが、戦後も実態はベールに覆われていた。だが、市民らによる調査が進み、明治大は残された施設を改装した資料館を2010年に開設した。
住民と自治体が共に動く例も増えている。埼玉県桶川(おけがわ)市は陸軍飛行学校の木造の兵舎棟などを今年文化財に指定し、復元保存に向けた解体、調査作業に着手した。住民らが署名集めや見学会の開催などを通じ、保存に取り組んできたことを受けての対応である。
登戸の資料館長を務める山田朗(あきら)明治大教授によると、国や自治体が文化財などに指定・登録した戦争遺跡は約270件にのぼり、40を超す保存団体が連絡を取り合っているという。今月下旬、資料館が開いた見学会には若者の姿も目立ち、世代を超えた関心の高さをうかがわせた。
戦争遺跡に関して文化庁は調査を進めているが、作業は停滞している。戦後71年を経て、多くの遺構は老朽化が進む。戦争の教訓を後世に伝える手段として、国も保全に取り組む姿勢をより明確に示す時だろう。

私立小中 授業料支援へ 年収590万円未満の世帯 - 毎日新聞(2016年8月30日)

http://mainichi.jp/articles/20160831/k00/00m/040/067000c
http://megalodon.jp/2016-0831-0917-13/mainichi.jp/articles/20160831/k00/00m/040/067000c

文部科学省は30日、私立の小中学校に通う子どもがいる年収590万円未満の世帯に、2017年度から授業料の一部を国が負担する制度を設けると発表した。高校授業料無償化の一環で、子どもが私立高校に通う世帯には最大で年約30万円を国が負担しているが、私立小中学生の世帯にはこうした制度がなかった。文科省は来年度予算の概算要求に13億円を盛り込む。
負担額は年収250万円未満が年14万円、250万円以上350万円未満が12万円、350万円以上590万円未満が10万円。来年度の小1と中1から順次導入する。
文科省によると、私立小中学校の平均授業料は年間約40万円で、比較的年収が高い世帯の子どもが通うケースが多い。しかし、公立校でいじめを受けて転校したり、宗教上の理由や男女別学を希望したりして私立を選ぶ場合もあり、国の支援が必要と判断した。子どもが私立の小中学校に通う世帯のうち、約1割が年収600万円未満だという。【佐々木洋】

私立小中補助 もっと吟味が必要だ - 朝日新聞(2016年8月31日)

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ほかに優先すべき施策がないか、現場の実態はどうか、慎重な吟味が必要だ。
文部科学省が、私立の小中学校に通う子のいる年収590万円未満の世帯に、授業料の一部を補助する制度を考えている。
年収に応じ、年10万〜14万円を支援する。来年度予算の概算要求に約13億円を盛り込んだ。
小中は、誰もが授業料がただで通える公立がある。私学を選んだ家庭になぜ補助するのか。
私学の多くは中高一貫教育や男女別学、宗教教育といった特徴を打ち出してきた。だが小中とも、平均で年40万円余の授業料を払わなければならない。
「家庭の経済状況にかかわらず、国公私を通じて多様な教育を選べるようにしたい」と文科省は話す。
中高一貫の中学段階は公立だと授業料が無償だが、私立は有償だ。私学からは「格差を是正すべきだ」との声も出ている。
子どもの学校選びが、家庭の豊かさに左右されないようにする。その方向性は正しい。
私学に行かせたいが経済的なゆとりがない家庭には、限られた額だが朗報だろう。
しかし制度化については、さらなる検討が欠かせない。
教育費の負担を軽くする制度は、大学生への奨学金や、小中で学用品や通学費を支援する「就学援助」などがあるが、貧困の実態に追いついていない。
公立に通いながら給食費を払うのに苦労する家庭や、学力があっても大学に行けない子がいるなか、私立小中の授業料の補助がどこまで優先されるのか。
小学校から高校までの公教育で保護者負担を軽くする制度がないのは私立小中だけだ。公教育外のフリースクールにも公的支援のモデル事業が始まった。
「義務教育にもかかわらず、私立小中に授業料の補助がないのは制度上、整合性を欠く」と文科省は言う。
だが制度の問題だけでなく、現実がどうなっているのかを、まず把握する必要がある。
恵まれない家庭が私学を選んでいるのはなぜか、どんな理由の世帯がどれだけあるのか。文科省は小中それぞれで実態を調査するべきだ。
私学、とくに小学校は都市部に多い。私立の授業料を支援すれば、都市と地方の教育環境の格差が広がる懸念がある。各地の実情も調べてもらいたい。
制度をつくる前にそもそも必要なのは、公立、さらには私学も含めた公教育でどこまで多様性を認めるのかという議論のはずだ。制度化は、そうした吟味を経てからでも遅くない。