(筆洗)初期人類アファール猿人の化石が「ルーシー」と命名 - 東京新聞(2016年8月31日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016083102000131.html
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四歳の男の子が絵を描いた。青色の空に金色の髪の女の子が浮かんでいる。父親が聞いた。「これは何の絵?」
男の子は教えた。「空にいるルーシーだよ。ダイヤモンドを着けて」。父親はこの話を元に幻想的な一曲を書いた。「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイヤモンズ」。ビートルズファンにはおなじみの逸話で、父親はジョン・レノンである。
一九七四年、エチオピアの渓谷。発見された初期人類アファール猿人の化石が「ルーシー」と命名されたのは、女性と判明したことと、発見の日、発掘キャンプで何度も流れていたビートルズのその曲にちなんでのことだという。
絵のルーシーは空中にいたが、約三百二十万年前のルーシーは落ちた。ルーシーの骨をCTなどで分析した結果、高い木から落ちて死亡した可能性があることが最近の研究で分かった。
直立歩行を手に入れたアファール原人の足の裏は人間とほぼ同じで、サルほどに木を握るのに適していなかった。<猿人も木から落ちる>。本紙の見出しだが、二足歩行の結果、木のぼりが下手になっていたと考えれば、<猿人も>ではなく、人間に近い<猿人だから>木から落ちた、ということか。
痛かっただろうか。われわれ人類が木の上を離れ、地上で暮らし、二足で歩き、両手を使い、やがて言葉まで手に入れたのはその落下のおかげかもしれぬ。