ブルキニ騒動 人権大国らしからず - 東京新聞(2016年8月31日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016083102000135.html
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イスラム教徒女性の水着「ブルキニ」をめぐり、フランスの自治体が相次ぎ禁止としたのは間違った対応だ。無効とした司法の判断に従うとともに今、本当に成すべきは何かを議論するべきだろう。
自治体側は禁止理由を「挑発的な宗教活動」と決め付けるが、それではイスラム教徒への差別や憎悪を助長し、社会の分断を深めるだろう。かえってテロを誘発しかねず、人権大国らしからぬ勇み足と言っても過言ではあるまい。
ブルキニとは、ムスリム女性の全身を覆う着衣「ブルカ」と水着の「ビキニ」を合わせた造語=写真、AFP・時事。頭から足首までつながった水着で髪や肌の露出を抑えつつ、体の線も出ないようゆったりしている。数年前に登場し、英国などでは非イスラムの女性が体形を隠すためや日焼け防止に着る場合もある。
政教分離を国是とするフランスは、イスラム教徒のシンボルであるスカーフの着用を公立学校などで禁止し、顔まで覆い隠すブルカは公共の場で禁止している。
問題のブルキニについては「イスラム国」(IS)などによるテロが頻発したことを受けて南仏の自治体が海岸での着用禁止に踏み切り、罰金を科したりビーチから追い出したりする例が起きた。七月にトラック暴走テロが起きたニースも禁止を決めた。
しかし、ブルカと違い、顔を覆っていないブルキニの禁止には「人権侵害だ」とする論調もあった。イスラム教徒らが禁止令の差し止めを求めたのに対し、行政裁判で最高裁にあたる国務院は「基本的自由に対する深刻かつ明白な侵害だ」と断じたのである。
判断は南仏の一自治体に対するもので、一部の自治体は撤回しない考えを示し、右派の政治家の中には禁止措置の法制化を目指す声もある。短絡的な禁止措置は問題をより困難にするだけだ。
フランスはイスラム圏旧植民地からの移民が二世、三世になり、国民の十人に一人の割合にまで達する。だが、移民への配慮を欠いた強引な同化政策が機能せず、しゃくし定規に政教分離を唱えても社会の分断を深めるばかりだ。
本来の人権大国の理念に立ち返り、移民を含めた国民の融和を進めることこそが望まれている。