(筆洗)その場しのぎの酒を差し出す方らしい - 東京新聞(2018年11月28日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018112802000170.html
https://megalodon.jp/2018-1128-1102-55/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018112802000170.html

年の瀬が近づくと聞きたくなる落語の「芝浜」。魚屋の熊さんはどうしてもお酒がやめられず、ついには仕事にも行かなくなる。
働いておくれよとせっつくおかみさんに「明日っから必ず仕事に行く。だから、きょうだけは思う存分、飲ませてくれよ」
亭主の言葉を信じて笑顔で酒を振る舞うか。それとも心を鬼にして拒絶するか。こういう話なのかもしれない。政府が公表した消費税率10%への引き上げ対策のことである。引き上げによる景気悪化を防ぐため、キャッシュレス利用の消費者に5%のポイントを還元するなどの方針を打ち出した。
期間は引き上げから二〇二〇年夏まで。10%に上がっても5%分還(かえ)ってくるから差し引きすれば現行の8%よりもお得ということになる。どうやら、政府は将来のために酒をがまんしてと説得するおかみさんではなく、その場しのぎの酒を差し出す方らしい。
なるほど家計には朗報か。熊さんなら「ありがてえ」と涙ぐむだろう。さりとて、10%への引き上げは将来の財政や社会保障制度を考えた上での結論だったはず。景気の悪化は無論、避けたいが、そのために二兆円を超える大盤振る舞いの対策とはかえって国の財布を傷つけ、何のための引き上げかという話にもなろう。
酒を注ぐ優しいおかみさん。が、その酒には来年の統一地方選参院選での魂胆という「不純物」も混じる。