(筆洗)「行きたくない」という気持ちを大切に生きてほしい、 - 東京新聞(2017年9月1日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017090102000129.html
https://megalodon.jp/2017-0901-1006-50/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017090102000129.html

ランドセルしょった
六歳のぼく
学校へ行くとき
いつもまつおかさんちの前で
泣きたくなった
うちから 四軒さきの
小さな小さな家だったが
いつも そこから
ひきかえしたくなった…



そんな詩を書いたのは、二〇〇〇年に六十歳で逝った辻征夫さんだ。辻さんは、小学校の事務職員として働いたことがあった。だが、そろばんができないため経理はお手上げ。要領が悪く、子どもたちをハラハラしながら見ていることしかできなかったという。
そういう詩人が生きていたら今ごろ、ハラハラどころではなく、いても立ってもいられなかったろう。政府の調査では、不登校を始めるのが最も多いとみられるのは、夏休み明け。そして、子どもの自殺が最も起こりやすいのは、九月一日前後。
「行きたくない」が「生きたくない」となってしまう子がいるのなら、はっきり伝えたい。「行きたくない」という気持ちを大切に生きてほしい、と。
辻さんの詩は、続く。



未知の場所へ
行こうとするとき
いまでも ぼくに
まつおかさんちがある
こころぼそさと かなしみが
いちどきに あふれてくる
ぼくは べつだん泣いたって
かまわないのだが
叫んだって いっこうに
かまわないのだがと
かんがえながら 黙って
とおりすぎる


だれもが、そんな「まつおかさんち」を心に抱えているはずだ。