(筆洗)「内風呂」をたてすぎて、ついつい「トタテ」となる。 - 東京新聞(2017年1月21日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017012102000135.html
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きのうは、大寒。東北の宮城や山形では、募る寒さに「きょうは、内風呂たてっか」といった言葉が行き交っているかもしれぬ。
内風呂をたてる。かの地方では、この言葉が、「家の風呂を沸かす」とは違った意味でも使われるという。『とうほく方言の泉』によると「酒を飲む」ことを表すというのだ。なるほど、冷え込みがきつい日の熱い一杯は、効果てきめんの「内風呂」である。
考えてみれば、「内風呂」自体がぜいたくなことだ。水と燃料をふんだんに使う風呂を毎晩のように、わが家で楽しめるようになったのは、そう昔のことではない。
かつて庶民にとっては、銭湯や隣近所での「もらい湯」が一般的。政府の統計によると、各家庭の浴室保有率が五割に達したのは、一九七〇年ごろで、九割を超えたのは九〇年ごろのことだ。たてたくともたてられぬ内風呂の代わりに、「飲む内風呂」をクイッ。庶民のユーモアが染み込んだ方言ではないか。
立春までの二週間が、一年で一番寒いとき。熱い「内風呂」が格別の季節だが、『とうほく方言の泉』には「トタテ」なる言葉も紹介されている。戸をたてる、戸締まりをするという言葉が、秋田では「うたげの席に最後まで居座り続ける人」を指すという。
「内風呂」をたてすぎて、ついつい「トタテ」となる。ふんわりと湯気が立つような、愉快な北国の言葉である。