松橋事件 再審開始 「自白に矛盾の疑い」 熊本地裁決定 - 毎日新聞(2016年6月30日)

http://mainichi.jp/articles/20160630/ddg/001/040/002000c

熊本県宇城(うき)市(旧松橋(まつばせ)町)で1985年に男性(当時59歳)が刺殺された「松橋事件」で、熊本地裁(溝国禎久裁判長)は30日、殺人などの罪で懲役13年が確定して服役した宮田浩喜(こうき)さん(83)の請求を認め、再審を開始する決定をした。溝国裁判長は「自白の重要部分に客観的事実との矛盾が存在する疑いが生じており、自白のみで確定判決の有罪認定を維持することはできなくなった」と述べた。
宮田さんは捜査段階で自白し、1審途中から否認に転じて無実を訴えたが、公判では認められなかった。再審請求審は自白の信用性が争点となり、弁護側は傷が凶器の形状と一致しないことなど自白と矛盾するとする証拠を提出。検察側は「再審開始の要件である新規性も明白性もない」として請求棄却を求めていた。
被害者の傷と凶器とされた小刀の形状が一致しないとする弁護側の主張について、溝国裁判長は「新証拠である鑑定書などから被害者の傷の一部は凶器として提出された小刀ではできない合理的疑いがある」と指摘した。検察側は「刃先が挿入する際などに皮膚が伸縮する『押し下げ現象』で説明できる」と主張していたが、弁護側は「首元や胸元は皮膚が伸縮しにくいため『押し下げ現象』は起こりえない」とする法医学者の鑑定書を提出していた。
また、宮田さんが「小刀に血液がつかないように布切れを巻き付け、犯行後にこれを燃やした」としていた自白について「弁護人が提出した新証拠である布切れにより、布切れが燃やされておらず、血液も付着していないことが判明した」と指摘。「凶器にも血痕が付着していないのは不自然で小刀が凶器でない疑いが強まった」と結論づけた。弁護側は1997年に熊本地検に証拠の閲覧を申請し、燃やしたはずの布が見つかったとする新証拠を提出。検察側は「巻いていたのは地検が保管していた布とは別だ」と反論していた。
この他、宮田さんの供述の変遷については「取調官から客観的事実との矛盾を追及され、取調官に迎合して作り話をした疑いがある」と述べた。【柿崎誠】

開始確定長期化も
熊本地裁の再審開始決定を受け、熊本地検は上級庁と協議し、即時抗告するかどうかを検討する。地検が今回の再審開始決定を不服として即時抗告した場合、審理は福岡高裁に移ることになる。高裁でいずれの結論が出ても、さらに最高裁に特別抗告することができ、再審を開始するかどうか確定するまでは長期化も予想される。

再審開始決定の骨子

  • 被害者の傷の一部と凶器とされる小刀の形状が一致しない疑いがある
  • 小刀に巻き付けたとされる布は燃やされておらず、血痕も付着していない
  • 小刀が凶器ではない疑いが強い
  • 自白の重要部分が客観的事実と矛盾する疑いがあり、信用性が揺らいでいる
  • 自白だけで有罪認定を維持できず、確定判決には合理的疑いが生じた