少年法の改正 厳罰化に歯止めが必要だ - 信濃毎日新聞(2020年8月8日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200808/KT200807ETI090009000.php

厳罰化の流れが止まらない。
少年法の改正に向けた法制審議会の部会案である。民法改正で2022年4月に成人年齢が20歳から18歳となるのに合わせて、少年法の適用年齢も同様に引き下げるべきか3年半にわたって議論してきた。
引き下げの判断を見送り、全事件を家裁に送致する仕組みを維持する一方、18?19歳については検察官に送致(逆送)する対象範囲を広げることでまとまった。
現行では、16歳以上で殺人など「故意の犯罪行為により死亡させた罪」が逆送の対象だ。これに強盗や強制性交といった「短期1年以上の懲役・禁固に当たる罪」が加わる。起訴後は、禁止している実名報道も可能とする。
18?19歳は多くが高校生や大学生だ。大人と同様に刑事事件として扱われると、復学や就職が困難になるだろう。家裁の調査による立ち直りに向けた教育的な措置も受けられない。
実質的な厳罰化は、処罰より立ち直りに重点を置く少年法の趣旨から大きく逸脱する。
少年による凶悪事件が起きるたびに、被害者側の心情も考慮し厳罰化が重ねられてきた。今回は、民法公職選挙法と年齢をそろえるかどうかが議論の目的だ。
法制審では諮問当初から意見が割れたが、少年法が立ち直りや非行減少に大きな役割を果たしてきたことに異論は出ていない。
18?19歳の位置づけも「いまだ十分に成熟しておらず、成長発達途上」としている。
にもかかわらず、18歳未満とも20歳以上とも異なる取り扱いを設けて厳罰化を提言している。納得がいく議論が見えない。
法制審の進め方に問題がある。部会が結論を見いだせない中、年齢引き下げを主張する自民と全件家裁送致の維持を求める公明の両党が、折衷案で7月に合意した。1週間後にまとまった部会案は、おおむね与党案に沿った内容になっている。
本来なら専門家がまとめた結論を基に、政治家が議論し判断するべきだ。政治決着が先になり、厳罰化を安易に認めることになってはいないか。
法制審は9月に正式に部会で承認した後、法相に答申する予定だ。法務省は来年の通常国会に提出する見通しを立てている。
厳罰化に歯止めをかけなければならない。逆送対象であっても、家裁がこれまで以上に生い立ちや家庭環境を調査できる体制を整えていく必要がある。