少年法の適用年齢/安易な引き下げは避けたい - 河北新報オンラインニュース(2019年12月5日)

https://www.kahoku.co.jp/editorial/20191205_01.html
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少年法の適用年齢を20歳未満から18歳未満に引き下げるかどうか-。成年年齢を18歳とする改正民法が2022年4月に施行されるのを見据え、少年法の適用年齢引き下げについての議論が法制審議会(法制審)で進んでいる。早ければ年度内にも答申が出される見込みという。
ところが、大詰めを迎えたここにきて、少年院の元院長や家庭裁判所の元調査官などから、引き下げ反対の声が相次ぐ。少年法が果たしてきた教育的な処遇が後退する点などを危惧している。
反対の声が訴える通り、矯正教育による立ち直りを重視する現行の少年法は、一定の成果を上げている。適用年齢の引き下げは、逆に弊害をもたらす懸念が拭えない。法改正が必要な理由(立法事実)が見えず、安易な引き下げは避けるべきだろう。
現行制度では、少年事件は軽微な犯罪や非行を含め、全てを家庭裁判所が扱う。心理学などを専門とする家裁調査官が本人や家族に会い、生い立ちや家庭環境、非行の背景などを科学的に調査する。
詳細な調査を踏まえ、裁判官が少年の立ち直りに最良と考える処分を決める。少年院への送致や保護観察などの保護処分となれば、教育的な働き掛けで少年の更生と再犯防止を図っている。
現行の取り組みは評価が高く、法制審もその有効性を認識している。しかし、適用年齢引き下げは、18、19歳からこうした支援や立ち直りの機会を奪うことを意味する。
現在、家裁が扱う少年のうち、18、19歳は約5割を占める。少年法の適用外となれば、今の半数が家裁の枠組みから外され、刑事訴訟法に基づいて処分される。
さらにその多くは起訴猶予や罰金刑、もしくは執行猶予が想定される。そうなれば、反省や更生、再犯防止に向けた処遇が十分なされないまま放置することになり、再犯の恐れが高まりかねない。
このため法制審では、起訴猶予となった18、19歳の事件を家裁に送り、施設収容や保護観察などを科す「新たな処分」が検討されている。だが、それでは現行法を見直す必要性はなく、何のための法改正かとなろう。
引き下げ賛成派は法改正の理由として、18歳を成年とする改正民法との統一性を挙げる。だが、法律は目的に応じて適切な年齢を定めており、現に飲酒や喫煙、公営ギャンブルは20歳以上が維持されている。
少年非行は近年、急激に減少しており、18年は摘発者数が戦後最少を更新した。凶悪な事件も減少している。少年法の取り組みが有効に機能している証左だろう。
法制審は「年齢引き下げありき」で、逆立ちした議論に陥っていないか。少年法の理念に立ち戻って、引き下げの是非を根本的に議論する必要があるのではないか。