https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191213/KT191212ETI090007000.php
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ヘイトスピーチを地域にはびこらせない。自治体がその強い意思を示した取り組みと受けとめたい。川崎市議会で成立した差別禁止条例である。
道路、公園など公共の場で差別をあおる言動を禁じ、勧告や命令に従わずに繰り返した場合は処罰の対象にすることを定めた。ヘイトスピーチに刑事罰を科す条例は全国で初めてだ。
市は昨年、公共施設の利用を制限できることを定めた指針を他の自治体に先駆けて施行している。根絶に向け、条例の制定でさらに一歩踏み込んだ。
ヘイトスピーチは、在日韓国・朝鮮人らの尊厳と人権を傷つける許せない行為だ。在日の人たちが多く住む川崎でも、聞くに堪えない言葉を浴びせる街頭での示威行動が繰り返されてきた。
一時期ほどではなくなっているものの、いまだに収まってはいない。インターネット上では、特定の個人を標的にした誹謗(ひぼう)中傷の書き込みが悪質さを増しているという。依然として深刻な状況を見据え、少数者の人権を保障する上で、条例は重要な意義を持つ。
一方で見落とせないのが、言論・表現への不当な介入につながる恐れだ。恣意(しい)的な判断によって乱用されれば、表現の自由が侵され、民主主義の土台が揺らぐ。公権力による規制は最大限抑制的でなければならない。
その懸念を踏まえ、条例が、禁止する行為を具体的に明示し、厳格な手続きを定めたことはうなずける。ネット上の書き込みについては、差別と認定する基準を明確にすることは難しいとして刑事罰の対象にするのを見送った。
拡声器を使ったり、ビラを配ったりして、地域からの退去や身体への加害を扇動することのほか、人間以外のものに例えて侮辱することが対象になる。まず、やめるよう勧告し、従わなければ命令を出す。それでも収まらなければ、名前を公表し、刑事告発する。
それぞれの段階で学識者らによる審査会に意見を聴く。慎重に手順を踏んだ上で司法に判断を委ねる仕組みだが、乱用の恐れがなくなるわけではない。審査や認定の透明性と公正さを確保することが何よりも重要だ。
同時に、規制の実効性をどう持たせるか。運用には難しさが伴うだろう。一つ一つの事例に丁寧に対応して、信頼できる仕組みにしていくしかない。社会に差別や排外主義の根を張らせないために、行政だけでなく、市民が動き、押し返す力を強めたい。