検事長定年延長 政治からの独立が危うい - 信濃毎日新聞 (2020年2月5日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200205/KT200204ETI090007000.php
http://archive.today/2020.02.05-015024/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200205/KT200204ETI090007000.php

前代未聞の処遇である。黒川弘務・東京高検検事長の定年を半年間延長することを政府が閣議決定した。次期検事総長への就任をにらみ、首相官邸が主導した人事とみられている。
検察官の定年は、一般の国家公務員とは別に、検察庁法で検事総長は65歳、それ以外は63歳と定められている。今月8日で63歳になる黒川氏は間際に駆け込みで延長が決まった。
検察庁法に定年延長の規定はない。国家公務員法は、公務に著しい支障が生じる場合に延長できると定めているが、検察官に適用できるのか疑問だ。実際、過去に延長された例はない。
国会で森雅子法相は「重大かつ複雑、困難な事件の捜査、公判に対応するため」と述べている。それは何を指し、なぜ黒川氏に限って定年を延長しなければならないのか。説明になっていない。
検事総長はおおよそ2年で交代するのが慣例になってきた。現在の稲田伸夫氏は就任から1年半が過ぎたところだ。4月に京都で開く刑事司法の国際会議を花道に勇退する意向とされる。
黒川氏はその前に定年退官するはずだったが、延長で後任に就く道が開けた。安倍晋三首相は、法務省内で決めたことだとするものの、法務・検察の幹部の多くは閣議決定後に知らされたという。
透けるのは、禁じ手を繰り出してでも黒川氏を検事総長に据えようとする政権の思惑だ。時に政権幹部をも捜査の対象とする検察は、政治からの独立が厳しく求められる。組織を率いる総長人事への介入はその根幹を揺るがしかねない。深刻な事態である。
黒川氏は法務省での勤務が長く、官房長を5年ほど務め、事務次官も歴任した。官房長官ら政権中枢の信頼は抜群、との声が政府内で聞かれる。次官人事でも、法務省側の原案を官邸が退け、黒川氏を昇格させたという。
独立性や中立性が求められる組織について、安倍政権下では異例の人事が目につく。2013年には内閣法制局の長官に外務省出身者を起用し、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更に否定的な長官を交代させた。
17年の最高裁判事の任命でも、日弁連が挙げた候補者名簿にない弁護士を充てている。慣例には司法の独立を担保する側面があることを顧みない対応だった。
人事を押さえられて検察が独立性を保てなくなれば、政権は一層強大化しかねない。官邸の無理押しを許すわけにはいかない。