自衛隊中東派遣 目的も根拠も方便では - 信濃毎日新聞(2019年12月13日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191213/KT191212ETI090006000.php
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なぜ自民、公明の両与党から反対意見が上がらないのか。
安倍晋三政権が20日の閣議決定に向け、中東の海域に海上自衛隊護衛艦を派遣する準備を進めている。
防衛省設置法4条の「調査・研究」を根拠とする。何を調査しようというのか。有志連合を主導する米国の不興を買わないための方便であるのは明らかだ。
イラン沖のホルムズ海峡付近で6月、日本のタンカーが攻撃された。トランプ米政権は海域を監視する有志連合の結成を提唱し、各国に参加を求めた。核合意を巡って対立するイランの孤立化を図るのが狙いだった。
イランとの友好関係を壊したくない日本は、連合には加わらず独自に自衛隊を派遣する方針を固め、米国の賛意を得た。 海自の行動範囲からホルムズ海峡は外すものの、オマーン湾アラビア海北部は有志連合の監視域と重なる。安倍政権は連合との連携を明言している。
「調査・研究」は目的が曖昧でいかようにも拡大解釈できることから「打ち出の小づち」と呼ばれる。小泉純一郎政権はこの規定を盾に、国内で海自を米空母の護衛に当たらせた。あやふやな規定には危うさが付きまとう。
この根拠では商船の警護はできない。政府は非常時には海上警備行動を発令する構えでいる。警察権の行使で、日本の人命や財産に関わる船舶が保護対象となる。武器使用は「正当防衛」と「緊急避難」の場合に限られる。
日本と無関係の外国商船が救援を求めてきた際はどう対処するのか。有志連合の協力要請には応じるのか。国内法を理由に、人道的支援を断れるのか。
安倍政権は、具体的な場面を想定しながら定める部隊行動基準を公表しないという。それでは派遣の妥当性を検証できない。本来なら計画の詳細を示し、国民や国会の理解を得るのが筋だ。
明確な目的も法的根拠も欠いたのでは、海自が混乱に陥り、なし崩しに武力行使の範囲が広がる恐れすらある。多分に米国への配慮から、自衛隊員を危険にさらす判断は認められない。
日本や国際社会にとって中東の安定は重要―と政府は言う。ならばなおさら、武装勢力を刺激しかねない有志連合構想とは距離を置くべきだ。核合意から一方的に離脱し、中東情勢の悪化を招いたトランプ政権に姿勢の転換を迫ることこそ日本の役割だろう。航行の安全にも資するに違いない。