日本の決議案 やせ細る核廃絶の意志 - 信濃毎日新聞(2019年11月2日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191102/KT191101ETI090007000.php
http://archive.today/2019.11.03-004537/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191102/KT191101ETI090007000.php

被爆国として核兵器の廃絶を本気で目指しているのか―。非保有国に疑念が広がりかねない内容だ。
日本政府は今年も国連総会第1委員会に核廃絶決議案を提出した。
昨年まで記載していた核使用の非人道的な結末に対する「深い懸念」の文言を削除した。具体的な核削減策にも触れなかった。
保有国が非保有国を核攻撃しないと約束する消極的安全保障を巡る表現も削除。保有国が反発する核兵器禁止条約については3年連続で直接の言及を避けた。
25年連続で採択されている日本の決議案は近年、目に見えて抑制的になった。2017年採択の核兵器禁止条約を巡って保有国と非保有国が対立する中、保有国への配慮を重ねた結果だ。今年はその傾向が特に顕著だ。
米ロは8月、中距離核戦力(INF)廃棄条約を失効させた。21年に期限切れとなる新戦略兵器削減条約(新START)も、延長交渉は進んでいない。残された軍縮条約の履行促進が重要なのは明白なのに、決議案はその点に言及すらしていない。
保有国と非保有国の「橋渡し」を目指すという政府は、保有国、特に米国への追随が際立っている。そこまでしても昨年は五大保有国のうち米仏が棄権、中ロが反対し、賛成は英国だけだった。
核拡散防止条約(NPT)発効50年の来年は5年に1度の再検討会議が開かれる。今年は何としても保有国の支持を広げたいという外務省の思いもにじむ。
調整役に徹し、保有国と非保有国の「共通基盤」を探っていても中身はやせ細る一方だ。これで核大国の行動が変わるとも思えない。決議に多くの賛成を集め、「議論を主導した」と胸を張る外交戦術はもう限界ではないか。
米国は小型核の開発に乗り出している。ロシアに対抗する「使える核」だ。核兵器は被害が甚大なので互いに使えない―との理屈が核抑止論の前提である。使えないなら減らす―との発想にもなる。その前提を覆す「使える核」は新たな核依存を生んでいる。
来年の再検討会議は軍拡への逆行を押しとどめ、保有国に軍縮交渉を義務付けるNPTの形骸化に歯止めをかけられるかが焦点だ。米ロに中国が加わる有効な軍縮交渉の足掛かりを見いだしたい。
唯一の被爆国の責務は、軍拡の愚と核廃絶の理を米中ロに説き、具体的な行動を促す正攻法の外交だろう。これこそ、国際社会が期待する「橋渡し」だ。