目黒虐待死判決 暴力用いぬ社会の合意を - 信濃毎日新聞(2019年10月17日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191017/KT191016ETI090007000.php
http://web.archive.org/web/20191018010205/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191017/KT191016ETI090007000.php

子どもへの虐待としては「最も重い部類」と位置づけた。東京・目黒の船戸結愛(ゆあ)ちゃんが死亡した事件の一審判決である。保護責任者遺棄致死などに問われた父親の雄大被告に東京地裁が懲役13年を言い渡した。
5歳だった結愛ちゃんは食事を制限されて極度に衰弱し、敗血症で死亡した。16キロあった体重は亡くなるまでの1カ月ほどで12キロ余にまで減っていたという。
サッカーボールのように腹を蹴る、風呂場で馬乗りになって冷水を浴びせる、といった暴力も明らかになっている。検察は「比類なく悪質」として殺人罪にも相当する懲役18年を求刑していた。
裁判員裁判の地裁判決は、食事制限や執拗(しつよう)な暴力の悪質さを指摘しつつ、過去の量刑を基に判断した。「最も重い部類を超えた刑を科す根拠は見いだせない」と述べている。処罰感情に流されない厳正な判断と受けとめたい。
裁判では、「しつけ」が理不尽な暴力に転じていく過程が浮き彫りになった。ドメスティックバイオレンス(夫婦間の暴力、DV)が重なって事態は悪化し、加担した母親の優里被告にも既に懲役8年の一審判決が出ている。
千葉の小学生、栗原心愛(みあ)さんもしつけを名目に体罰を受け、死亡した。政府は児童虐待防止法などを改正して体罰の禁止を明記した一方、なお民法には「懲戒権」が残る。親が子を懲らしめることを認めた明治以来の規定だ。
法制審議会で見直しの議論が始まっている。「しつけには体罰も時に必要」などとする意識はいまだ社会に根強い。懲戒権の廃止は、暴力に頼らない子育てを社会の合意として根づかせていくために欠かせない一歩だ。
痛ましい虐待死が相次ぎ、児童相談所の態勢や機能の拡充、関係機関の連携強化も図られてきた。ただ、中核を担う児相に負担が集中する状況は変わっていない。増え続ける虐待への対応に追われ、現場の疲弊も深刻だ。
もっと大胆に役割分担を進め、過重な負担を減らす必要がある。住民に近い市町村が担う部分を明確にし、態勢を整えることが何より重要だろう。民間団体の協力を得ることも欠かせない。
子どもは社会が守り育てる存在だ。住民にできることは、虐待の通報だけではない。つらい思いをしている子や、困っている親が身近にいないか。日ごろから気にかけ、孤立させないことが、深刻な虐待を防ぐ安全網にもなることをあらためて心に留めたい。