教員変形労働制 根本的な是正にならない - 信濃毎日新聞(2019年10月21日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191021/KT191018ETI090016000.php
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年度初めや学校行事が立て込む忙しい時期は勤務時間を延長し、代わりに、夏休みの期間中に休暇を取る―。働く時間を年単位で調整する「変形労働時間制」を公立校の教員にも適用できるようにする法改正案を政府が閣議決定した。
長時間労働が常態化した教員の働き方改革の一環と位置づけている。ただ、休暇をまとめて取れるようにしても、労働時間が全体として減るわけではない。むしろ、学期中の長時間労働を追認することになりかねない。
定時が延びると会議などが入り、家に持ち帰る仕事がかえって増えないか…。心配する声が現場から出ている。夏休み中も部活動や研修があり、必ず休みが取れるとは限らない。表向き残業時間は減っても、どこまで過重労働の是正につながるのか疑問だ。
文部科学省は、教員の残業時間の上限を月45時間とする指針を1月に定めている。この指針の位置づけも条文で明確にするが、変形労働制は月ごとの上限をなし崩しにする恐れがある。
日本の教員の勤務時間は欧米各国に比べると突出して長い。経済開発協力機構(OECD)の2018年の調査では、5年前よりさらに増えた。過労死の労災認定の基準となる月80時間を超えて残業をしている教員は、文科省の16年度の調査で、小学校で3割余、中学校では6割近くに上る。
順次導入される次期学習指導要領では、思考力や表現力を引き出す授業の工夫が一層求められる。小学校では英語が教科になり、授業時間も増える。教員の負担が増すのは目に見えている。
一方で、子どもを取り巻く問題は深刻化している。18年度に全国の学校で確認されたいじめは54万件を超え、心身に重大な被害が及ぶ事態も600件に達した。自殺した小中高校生は330人余に上り、ここ30年で最も多い。親から虐待される子も増えている。
教員に時間と気持ちの余裕がなければ、子どもと丁寧に向き合うことはできない。発しているサインや異変を見過ごすことにもなる。過重な負担を減らすには、十分な教員数を確保するとともに、学校や教員が担ってきた仕事を見直し、分担する仕組みや補う態勢を整えていく必要がある。
法改正により一律に変形労働制が取られるわけではなく、導入するかどうかは自治体が判断する。国会での法案審議に加え、地方議会や地域で、学校現場の実情を踏まえた議論が欠かせない。