https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200301/KP200229ETI090002000.php
http://archive.today/2020.03.03-000818/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200301/KP200229ETI090002000.php
2月上旬、都内にある県の情報発信拠点「銀座NAGANO」。首都圏で学ぶ大学生約30人が集まった。多くは就活を控えた3年生で、県外出身者もいる。
向き合ったのは県内の小中学校、特別支援学校の若手教員だ。日々の仕事ややりがいを話した。「大変ですか?」「保護者の対応はどうするのですか」。学生から突っ込んだ質問も出た
。
県教委は2014年からこうした説明会を開いている。
「学校は多忙な職場、というイメージばかり先行している。教員の生の声を通して、大変さ以上の魅力や喜びを伝えたい」と義務教育課の担当者は説明する。
他県も同様の取り組みを強めている。共通するのは、教育現場を支える教員を何とか確保しなければ―という危機感だ。
耳目を集めたデータがある。18年度に行った公立学校の教員採用選考試験「実施状況」だ。
<認識甘い文科省>
小学校の競争率(採用倍率)は2・8倍で過去最低だった。中学校も5・7倍に低下し、バブル期の水準に近づいていた。
長野県は小学校3・3倍、中学校5・0倍だ。いずれも過去10年で最低である。
低倍率は大量退職に伴う採用増と、景気復調による受験者減が影響した。一般に公務員の志望者は景気の良しあしで増減する。
文科省はデータ公表に「分析」も添えた。小学校で減ったのは不合格後に講師を続けながら再受験した既卒者で、新卒者は横ばいだったとし、「学生の教職の人気が下がっているためと
は、必ずしも言えない」としている。
認識が甘くないか。小学校教諭を目指す学生は原則として教員養成系の学部にいる。新卒者の受験者数に変動が少ないのは当然のことだ。むしろ、既卒者の減少の方が気になる兆候だ。
教員養成系でなくても免許を取れる中学校の場合、近年は既卒者も新卒者も減っている。学生と教育現場の双方の実情にしっかりと目を凝らす必要がある。
非正規の常勤講師は正規の教諭より低い待遇ながら、正規と変わらぬ責任を負う。不安定な有期雇用であっても、教職への憧れが強いからこそ教壇に立つ。
学校は「やりがい」ばかりではない。成育や家庭に多様な課題を抱える子どもが増えている。保護者の要求は過剰、過激になり、信頼は築きにくくなった。指導を巡る会議を終えて採点
や教材研究にたどり着くころには、上司に早く帰るよう求められる。仕事はまだ残っているのに―。
既卒者の減少は「民間がいい」と流れただけだろうか。教員の厳しい現実に夢破れ、道を変えてしまったのではないか。
講師の登録は減っている。休職などに伴う臨時の任用が難しくなり、学校運営は綱渡り状態だ。現場の疲弊を招き、さらに働きにくくなる、という悪循環を招く。
<本丸は人員の充実>
受験者が少ないからと、合否の判断基準を下げれば、子どもと現場にしわ寄せが行く。そうならないためには、多様な人材を採用試験に導く工夫が欠かせない。
県教委は直近の実技試験で小学校の陸上、リコーダー、水泳などをやめた。学生が受験しやすくするのが狙いだ。それでも小中学校などの志願者数は前年を約80人下回っている。
「有能な学生ほど自分が学び、成長できる環境を求めている」と県内大学の教員はみる。自己開発できる余裕のある職場が選択される傾向は強まっていく。
近年は学校でも事務や会議が省略され、効率化が進んだとの声を聞く。それでも長時間労働の大幅な改善につながってこない。
「本丸」はやはり増員だ。教員はすべての困難を抱え込めるスーパーマンではない。業務を細分化し、引き剥がせば済む仕事でもない。子どもの成長にトータルに関与し、教員自身も成
長できる学校を目指したい。人材確保のため、国は教職員定数や待遇の抜本改革を打ち出す時だ。
人口減少を理由に今後の教員数を抑えたい財務省の壁は厚い。働き方改革に関する中教審の答申も人員増までは強く踏み込まなかった。突っ込んだ議論を急ぎ、迅速な見直しを求める。
答申に盛った変形労働時間制の導入は21年度から可能になる。労働時間を年単位で調整できるが、人員不足を放置すれば、学期中の長時間労働を助長するだけだ。
教職を目指そうと思う時期は多くの場合、学齢期だろう。学校に良き出会いがあり、居場所があり、仲間や教師と目標を達成した成長の喜びがあればこそ、自分も人生をささげようと考
える。
学校は今、未来の教員を生み出せる状況にあるか。志望者減少が問うている本質は、そこにある。