虐待とDV ひとつながりと認識して - 信濃毎日新聞(2019年5月18日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190518/KT190517ETI090016000.php
http://archive.today/2019.05.18-014643/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190518/KT190517ETI090016000.php

子どもへの虐待はドメスティックバイオレンス(夫婦間の暴力、DV)と深く結びついている。千葉の小学4年生、栗原心愛(みあ)さんが父親から虐待されて死亡した事件は、そのことをくっきりと映し出した。
傷害ほう助罪に問われた母親のなぎさ被告は初公判で、自身が受けたDVについても証言した。傷害致死罪などで起訴された夫の勇一郎被告から何か言われると「絶対にやらなくてはいけない気持ち」になったと述べている。
暴力を振るわれ、勇一郎被告に支配されていた様子がうかがえる。精神的にも追いつめられて自分では判断ができなくなり、同調して虐待に加担することにつながっていったのではないか。
DVも虐待も、暴力によって相手を支配する点で変わりはない。内閣府の調査では、DVがあった家庭の2割余で子どもが虐待を受けていた。DV被害者の支援団体からは、現場の感覚ではもっと多いという声が出ている。
子どもが虐待されていた場合は背後にDVがないかを、逆にDV被害があった場合は、虐待がないかを確かめる必要がある。隠れた被害を見落とさず、親と子の双方を守ることが、事態の深刻化を防ぐことにつながる。
けれども、そのための関係機関の連携は弱い。千葉の事件でも、母親のDV被害に児童相談所は気づいていながら、対応が取られた形跡は見あたらない。
DVに関しては、窓口として「配偶者暴力相談支援センター」が各地に設けられている。子どもへの虐待の可能性がある場合は児相と情報を共有するよう国は指針などで定めているが、機能しているとは言いがたい。
所管がDVは内閣府、虐待は厚生労働省に分かれ、関係機関の対応はどうしても縦割りになりがちだ。分かちがたい形で起きているDVと虐待を別々に対応することにそもそも無理がないか。
千葉の事件などを踏まえ、今国会では児童虐待防止法やDV防止法の改正案が審議されている。DVの相談支援センターと児相の連携を図る内容だが、どう具体化するかは見えない。
DV被害者への支援は民間の組織に頼っている面も大きい。家族間の暴力について相談窓口の一本化を求める意見も出ている。
虐待とDVはひとつながりだという認識を共有し、子どもとともに親を支える仕組みを再検討したい。そのためにも、実態を把握することがまずは重要になる。