外国人受け入れ 実習制度と併存矛盾映す - 信濃毎日新聞(2020年1月28日

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200128/KP200127ETI090009000.php
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技能実習生の制度を残したまま、急ごしらえで新たな在留資格を設けた政策のちぐはぐさの表れだろう。外国人労働者の受け入れ拡大に向け、昨年4月に導入した「特定技能」である。
介護、外食、建設など、対象の14業種で政府は初年度に最大4万7千人余の受け入れを見込んだが、遠く及ばないのが実態だ。今月半ばの時点でおよそ2600人と、5%余にとどまる。
県内でも様子見の企業が多いようだ。昨年11〜12月の主要企業へのアンケートでは、受け入れを「考えていない」が7割を超えた。実習生で間に合うという声も経営者から聞こえてくる。
深刻な人手不足を補う目的で、一昨年12月に入管難民法を改定した。正面から受け入れてこなかった「単純労働」に実質的に間口を開く大きな政策転換である。
にもかかわらず、国会で議論を煮詰める間もないまま、与党が数で押し切った。翌春の統一地方選、夏の参院選を前に、産業界の要望に応えて政権が導入を急いだ「選挙対策」の面が色濃い。
詳細を定める政省令が示されたのは施行の半月前だ。準備不足は避けようもなく、在留資格の認定に必要な技能と日本語の試験の実施が遅れ、送り出す国側の体制づくりも追いつかなかった。
これまで外国人の単純労働者を表向き認めない一方で、「抜け道」になってきたのが実習制度だ。過重労働や職場での暴力、暴言が横行する劣悪な状況がかねて指摘され、失踪も絶えない。
途上国への技術の移転という本来の目的との隔たりはあらわだ。新たな在留制度で外国人労働者を受け入れるなら、実習制度を残す理由は見つからない。
ところが、特定技能はそれに建て増す形になった。実習制度については2017年施行の適正化法で監督の強化が図られたものの、状況は目に見えて改善されてはいない。建前との乖離(かいり)に目をつむる限り、弊害は温存され、建て増しでさらに深刻化しかねない。
特定技能の新設にあたって安倍晋三首相は「移民政策はとらない」と強調した。単純労働者は受け入れないという表看板もあくまで下ろすつもりはないようだ。
同じ社会を担う存在として迎え入れる姿勢を欠いた、場当たりな労働力補充政策は立ちゆかない。日本で働き、暮らす外国人が直面する困難に目を向け、改善していくことが何より大切になる。技能実習制度は廃止し、新たな在留制度を根本から立て直すべきだ。