子どもの貧困 支援つなぐ 県がネットワーク設立:埼玉 - 東京新聞(2019年1月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/list/201901/CK2019012502000150.html
https://megalodon.jp/2019-0125-0920-19/www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/list/201901/CK2019012502000150.html

七人に一人の子どもが貧困状態とされる中、県が、貧困対策に取り組む団体や個人の連携を進めるための「こども応援ネットワーク埼玉」を立ち上げた。県内のNPOや市民団体、企業、自治体などが幅広く参加。情報共有や登録者間のマッチングを通じて、一人一人の「何かできないか」という思いを形にしようとしている。 (井上峻輔)

■シニアの活躍 NPOなど「思い」形に
加須市の空き店舗には、食料品が入った段ボールがずらりと並んでいた。パスタ麺、切りもち、ジュース…。次々に訪れる親子連れが、気に入ったものを袋に入れていく。
十八日夜に地元の市民グループこども食堂応援隊」が企画した無料の食料配布会。対象は、事前に申し込んだ三十一世帯のひとり親家庭だ。食料は、まだ食べられるのに賞味期限が近いなどで廃棄対象になった品。地元の農家から提供された米や果物も用意した。
「こんなにもらえると思わなかった。キャリーバッグがいっぱいになっちゃって」。小学五年の男の子を連れた女性(44)が笑顔を見せた。母子家庭で、パートで生計を立てている。時給制のため、子どもが熱を出すなどして仕事を休むとすぐに家計は圧迫される。「こういう場所が近くにあるとすごくありがたい」
応援隊事務局長の鈴木一男さん(66)は「喜んでもらえるとうれしいね」とほっとした表情。元銀行員で「今まで『子どもの貧困』なんて全く興味がなかった」。きっかけは昨年六月に県がシニア向けに開いた勉強会だ。「衝撃を受けた。七人に一人が貧困状態だなんて全然知らなかった」
すぐに仲間を募って「応援隊」を結成。安全に食べられるのに廃棄される予定の食品を集めているフードバンクから食料の提供を受けることを決め、配布会の準備を進めてきた。今後も二カ月に一度の開催を決めている。

■マッチング 登録100超の強み生かす
鈴木さんが参加した勉強会を主催し、八潮市に倉庫を持つフードバンクを紹介したのは、県福祉部企画幹の内田貴之さん(47)だ。「シニアのパワーを活用したかった。こんなに早く形になるとは」
厚生労働省の調査によると、二〇一五年の子どもの貧困率(所得が標準的世帯の半分以下の世帯で暮らす十八歳未満の割合)は13・9%で、七人に一人が貧困状態とされる。県は本年度から子どもの貧困対策を本格化。その一環として昨年末に立ち上げたのが「こども応援ネットワーク埼玉」だ。県が主体となって、こうした連携を呼び掛けるのは全国的にも珍しい。
既に、子どもの居場所づくりや学習支援に取り組む百以上の団体や個人が登録した。これらの会員が、それぞれの強みを生かしながら、連携していくことを狙いにしている。
例えば、近年広く浸透してきた「子ども食堂」。「県こども食堂ネットワーク」代表の野口和幸さん(51)は「県内でも百二十三カ所に増えたが、活動を維持できずにやめていくケースも多い」と語る。ネックになるのは食料、担い手、活動場所の三つの確保だという。
「この物件を子どもの居場所として活用してほしい」「冷凍食品五百食が余っているので今日中にどこかでもらってくれないか」。内田さんの元には、そんな相談が連日寄せられる。これらを各団体につなげるのも役割の一つだ。

■企業の取り組み コンビニで子ども食堂
企業の動きも活発化している。大手コンビニ「ファミリーマート」は県と連携して十九日、富士見市の店舗でイートインスペースを使った「ファミマ子ども食堂」を開催。地元の小学校に通う子どもが集まった。
店員と同じ制服を着て、店舗のバックヤードへ。ペットボトルを店頭に並べたり、商品にラベルを貼ったりする作業を体験。最後はコンビニの弁当やチキン、デザートを皆で食べた。
昨年末から県内で試行的に実施していて、今回が三店舗目。同社の高田俊明CSR・総務部長は「地域に根差した事業展開をする自分たちにも何かできないかと考えた」と語る。
子ども食堂とは言え、内容は職業体験の側面が強いため、気軽に参加しやすい。今回集まった子どもたちも「ファミマの裏側が見たい」といった申し込み理由が多かった。今後は、他県にも活動を広げていく考えだという。
そんなファミマ子ども食堂の様子は、こども応援ネットの会員制交流サイト(SNS)にすぐにアップされた。「埼玉県では『企業版子ども食堂』の設置運営を応援しています。関心のある企業の社長さんは御連絡ください」というメッセージも添えられた。
内田さんは言う。「子どものために何かをしようという仲間を増やしていきたい。子どもを中心に地域が盛り上がればコミュニティー再生にもつながるから」

こども応援ネットへの申し込みや問い合わせは、県福祉部の事務局=電048(830)3204=へ。ホームページでも受け付けている。