http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201812/CK2018121602000135.html
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児童養護施設で暮らす子どもたちの大学進学を後押ししようと、青山学院大(東京都渋谷区)は、全国的にも珍しい、施設出身者を対象にした推薦入試制度を導入した。今春、第一号で入学した桜井彩子さん(19)=仮名=は願う。「誰もが夢をみてもいい社会にしたい。制度が広まればうれしい」 (木原育子)
「夢じゃないよね?」。昨年十一月、桜井さんは合格通知を手に、施設職員らと泣きながら喜んでいた。「私は本当に幸運。でも、施設には経済的な理由で将来の道をあきらめざるを得ない子の方が多い」。自分だけがつかめたような幸せに、少し胸が痛んだ。
桜井さんは小学二年の時に両親が離婚。生活保護を受けながら、母親と姉、弟の一家四人で暮らした。だが、六年後の二〇一四年、母親が大腸がんで突然亡くなってしまった。
二カ月後、姉、弟と一緒に神奈川県内の児童養護施設に入所。慣れない集団生活や母親がいない現実を受け入れられず、気がおかしくなりそうだった。
でも、涙一つ見せずに自分と弟を支えてくれる姉の隣で、泣き虫のままではいられない。施設が併設する中学校から奨学金で一般の高校へ進み、将来について真剣に考え始めた。
得意の英語を磨き、世界に羽ばたく女性になりたい。でも、金銭的な支援がなければ進学はかなわない。児童福祉法は入所対象の「児童」を十八歳未満と規定しており、高校卒業とともに原則として施設を退所しなければならない。
そんな時、施設職員が見つけてくれたのが、青山学院大の新しい入試制度。合格すれば学費が免除され、給付金も受けられる。
「人生はあきらめたら、そこで終わる」。学習支援のボランティアで施設に来ていた男性にも励まされた。この男性は偶然にも青山学院大の卒業生。そんな縁もあり、推薦入試に応募すると、見事に合格した。
「みんなと一緒に勉強できる環境にいられることが、うれしい」。大学へ入学し、そう実感している。
桜井さんの母親は生前、通訳の仕事をしていた。優しくて明るい、自慢の母だった。「私も母のように将来は英語を使って、人と人とをつなぐ仕事がしたい」と夢は広がる。
もう一つ、願いがある。「お金があれば大学に進み、将来が開けたという施設出身の子はたくさんいる。誰もが夢をみていい社会にしたい。そうじゃなければ、私にとって本当の幸せとは言えない」◆養護施設出身者の大学進学率、わずか14%
厚生労働省によると、昨年の児童養護施設出身者の大学進学率は14%で、全国平均52%の3割以下にとどまっている。2012〜16年の5年間、施設出身者の大学進学率は11〜12%で低迷を続けている。
立教大コミュニティ福祉学部(埼玉県新座市)は15年度から、入試に合格した施設出身者の4年間の学費を無料にし、年間80万円の奨学金を給付している。早稲田大も全学部を対象に17年度から、学費を4年間無料にし、月9万円を給付している。
青山学院大は18年度から、施設出身者に限定した推薦入試制度を学部にかかわらず設けたのが特徴。
合格すると、学費が4年間無料になり、月10万円の奨学金が給付される。試験は高校の成績を重視した書類選考と面接。初年度は全国から約10人が応募し、2人が入学。来年度も2人の入学が決まった。
三木義一学長は「全国の大学が施設出身者を1人ずつ受け入れれば、600人ほどの子どもの未来が広がる。日本の大学が一丸となって、取り組んでいくことが理想だ」と話す。