(余録)道鏡事件とは… - 毎日新聞(2018年12月23日)

https://mainichi.jp/articles/20181223/ddm/001/070/121000c
http://archive.today/2018.12.23-005352/https://mainichi.jp/articles/20181223/ddm/001/070/121000c

道鏡(どうきょう)事件とは奈良時代後半、僧侶の道鏡皇位の座につくことを勧めた神託をめぐるスキャンダルである。大分県の宇佐八幡に赴き、神託が偽りだと証明した和気清麻呂(わけのきよまろ)は、今も皇居近くに銅像が建つ。
実は、初めに宇佐八幡派遣を命じられたのは姉の広虫(ひろむし)だった。政変や争乱で親を亡くした多数の子どもを広虫は保護していた。すでに40歳近く、長旅は難しいため弟の清麻呂に大役を譲った。
道鏡の怒りを買って清麻呂大隅国(鹿児島県)、広虫備後国広島県)へ流されたが、桓武(かんむ)天皇の下で復権する。清麻呂長岡京平安京遷都に活躍した。広虫は自宅で孤児たちの世話をして天寿を全うした。これが日本初の孤児院とされる。
現在、児童養護施設は全国に600以上あり、3万人を超える子どもが暮らす。最近は親から虐待された子が多い。プライバシーのない集団生活、職員による体罰、子ども同士の暴力など課題は山積している。大学進学率も低く、貧困から抜け出せない人が多い。
朗報と言えるのは、養護施設出身の学生を対象に学費の無料化や奨学金の給付をする私大が増えてきたことだ。青山学院大は施設出身者に限定した推薦入試枠を今年度から設けた。合格すると学費が4年間無料になり、月10万円の奨学金が給付される。
広虫は孤児を自らの戸籍に組み入れた人でもあった。日本初の養子縁組制度だ。こちらの方は1200年たった今もなかなか増えない。古代に生きた慈愛の人を見ならうべきであろう。