(余録)この時期、NHKラジオ第1から「夏休み子ども科学電話相談」が流れると… - 毎日新聞(2018年7月29日)

https://mainichi.jp/articles/20180729/ddm/001/070/165000c
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この時期、NHKラジオ第1から「夏休み子ども科学電話相談」が流れると、感心したり、くすりと笑ったり、猛暑をよそに心持ちが和らぐ。夏休みの間、甲子園で全国高校野球大会が開かれる前後の時期、平日午前中に放送される。
先日驚いたのは、千葉県の小学3年生男児の質問だ。「重さってなんであるんですか」。答えは「見えないヒッグス粒子というのがあって、プールの中を歩く時の水のようにまとわりつき、物が動きづらくなるのが重さ」。5年前のノーベル物理学賞の解説レベルだった。
奈良県の小学2年生女児の質問は「無限の1個前は何ですか」。お母さんは「無限は無限やで」と答えたそうだ。回答は「数えられる無限と数えられない無限があります。数えられる無限が無数に集まった町をイメージして。その中は全部無限」。お母さんは正しかった。
アナウンサーが「分かったかな」と念押しした後の沈黙がおかしい。子どもたちの地方なまりも何だか懐かしい。電話口の向こうに赤ちゃんの泣き声が聞こえて、またほっとする。
子どものニュースは、いじめ、虐待、事故など暗い話が多い。でも、子どもの声をたくさん聞くと、活力を吹き込まれる。同時に、大人のようなそんたくをしない真っすぐな問いに、はっとさせられる。
「大人は、だれも、初めは子どもだった。しかし、そのことを忘れずにいる大人は、いくらもいない」(サンテグジュペリ星の王子さま」)。この夏休みが、子どもの王国であってほしい。