(余録)推理小説を書く者が守るべきルールに… - 毎日新聞(2017年7月29日)

https://mainichi.jp/articles/20170729/ddm/001/070/165000c
http://archive.is/2017.07.29-010555/https://mainichi.jp/articles/20170729/ddm/001/070/165000c

推理小説を書く者が守るべきルールに「ノックスの10戒」や「バン・ダインの20則」がある。2人の推理作家がともに挙げている決まりごとの一つが「探偵役が犯人であってはならない」という禁則であった。
読者にフェアに犯人を推理してもらうための10戒や20則で、なるほど探偵役が犯人ではあまりフェアでない。実際はこれに違反する有名な作品もあるが、下手に使えば読者をしらけさせるだけだろう。
こちらはしらけさせるよりも、あぜんとさせた防衛省のデータ隠蔽(いんぺい)のてん末である。特別防衛監察を命じた当の稲田朋美(いなだ・ともみ)防衛相がデータの隠蔽を了承していたとの疑惑が報じられ、探偵役が犯人だったかと注目された監察結果だった。
結局、防衛相直轄の監察本部は稲田氏がデータの報告を受けた可能性を示しつつ、隠蔽への関与は否定した。ご当人は報告のあった覚えはないと主張し、陸自トップや事務次官の関与の責任をとるかたちで防衛相をさっさと辞任した。
つまりは探偵・犯人入り乱れての真相はやぶの中、はっきりしたのは省内の度し難い隠蔽体質と防衛相の統率力の欠如であった。かねて閣僚の資質が疑問視されていた稲田氏には遅すぎた辞任か、それとも追及逃れの早すぎる辞任か。
いつも手がかりとなる記録や記憶がなく、決着のさっぱりつかぬ推理劇なら他にも抱える安倍(あべ)政権である。防衛相辞任や来月3日に予定する内閣改造で話をリセットしたかろうが、さて同パターンで連続する未解決事件に国民は納得するか。