https://mainichi.jp/articles/20171216/ddm/005/070/033000c
http://archive.is/2017.12.16-001919/https://mainichi.jp/articles/20171216/ddm/005/070/033000c
与党が来年度の税制改正大綱を決めた。所得税の負担を軽くしている控除の見直しなどが柱である。
本来問われるべきは、再来年の消費増税を控え、税体系をどう改革するか、ということだった。
増大する社会保障費の安定財源として消費税の重要性は増している。ただ低所得者ほど負担が重い逆進性の問題を抱える。非正規雇用が増え、所得格差も広がっている。
逆進性と格差の緩和には所得再分配の強化が必要だ。収入に応じて負担を求める所得税の役割は大きい。だが、大綱は踏み込み不足だ。
誰もが受けられる基礎控除は増やす。一方、会社員の給与所得控除は高所得者を中心に減らす。
この結果、フリーランスの低所得者などは減税、年収850万円超の会社員は増税となる。
与党は再分配を強める狙いと説明する。しかし、高所得者に有利な所得控除という枠組みは温存し、増税になる年収水準をどうするかという線引きの話に終始した。
増税の対象は230万人に上る。国民に新たな負担を求めるなら、再分配を強化する税制のあるべき全体像を示し、理解を得るのが筋だ。
矛盾も抱える。基礎控除は高所得者の控除を減らす仕組みも入れるが、対象は年収2400万円超と限定的だ。年収2000万円の自営業者は減税になり再分配に逆行する。
再分配効果をより発揮するのは税額控除である。所得にかかわらず同じ額の税を軽減し、相対的に低所得者にメリットがある。大がかりな改革になるが、検討すべきだ。
金融所得への課税強化も必要だ。給与の最高税率は55%だが、株式の配当・売却益などの税率は20%にとどまる。今回増税となる会社員より裕福な層ほど金融所得は多い。
大綱は出国者から徴収する国際観光旅客税や、住民税に上乗せして森林保全の財源に充てる森林環境税の創設も盛り込んだ。どういう社会や制度を目指すかという理念が十分議論されないまま、反発の少ない層に負担を求めるのは所得税と同じだ。
このままでは「取りやすいところから取る」安易な手法と受けとられても仕方がない。所得税の見直しはこれで終わらせず、抜本的な改革に踏み込むべきだ。