http://www.asahi.com/articles/DA3S13255019.html
http://archive.is/2017.12.02-002207/http://www.asahi.com/articles/DA3S13255019.html
来年度の税制改革に向け、与党の税制調査会での議論が佳境を迎えている。焦点の一つが所得税の見直しだ。
会社員の経費とみなして課税対象から差し引く給与所得控除は、年収に応じて増えていき、1千万円以上の人への220万円が上限だ。この上限を下げたうえで控除額も一律に減らす。
一方、すべての人が対象の基礎控除(一律38万円)は、所得の多い人を除いて増やす。
両者の組み合わせで、高所得の会社員は増税し、給与所得控除を受けられないフリーランスや個人請負で働く人は減税する。改革の骨格は固まり、増税とする会社員の範囲について「年収800万〜900万円超」や「1千万円超」など、調整が続いているようだ。
現在の給与所得控除の原型ができたのは40年以上も前だ。当時と今とでは働き方は大きく変わり、ネットで設計やデータ入力などを企業から受注し、自宅で仕事をする人も少なくない。
社会の変化に対応し、給与所得控除の適用の有無で生じる不公平を小さくする。同時に所得税の再分配機能を強める。そうした方向性に異論はない。収入が極めて多いお年寄りを対象に、年金受給者向けの控除を減らして負担増を求める制度変更を含め、実現に向けてしっかり検討してほしい。
ただ、これらの見直しは小さな一歩にすぎない。所得税をめぐる課題は山積している。
例えば控除のあり方だ。
いまは、収入から控除金額を引き、その後に所得税率をかけて納税額を計算する「所得控除」方式が中心だ。適用税率が高い裕福な人ほど、控除に伴う負担減が大きくなる。再分配を重視するなら、所得にかかわらず一定額を差し引く「税額控除」に切り替えるなど、抜本的な見直しが不可欠だ。
所得が増えるほど税率を高くする累進税制は、1980年代以降に大幅な緩和を重ね、再分配を弱めてきた。預貯金の利子や株式の配当・売却益は他の所得と切り離して課税しているが、税率は20%程度で所得税の最高税率45%と比べて低い。株式などに多く投資できる富裕層を優遇する形になっている。
与党は昨年、配偶者控除の廃止を検討した。しかし、パートで働く配偶者が就業時間を増やしやすくすることを優先し、仕組みを温存・拡大した。
その場しのぎに終わらせず、抜本的な改革につなげていけるか。政府・与党は目指す社会の将来像を見据え、議論を進めなければならない。