配偶者控除維持 「働き方改革」に値しない - 毎日新聞(2016年12月5日)

http://mainichi.jp/articles/20161205/ddm/005/070/002000c
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女性の活躍を後押しするための見直しではなかったのか。これでは安倍政権の「働き方改革」の本気度が疑われる。
配偶者が専業主婦やパートで働く世帯を減税する所得税の「配偶者控除」について、政府・与党の見直し案が固まった。控除を満額受けられる配偶者の年収の上限を103万円から150万円に引き上げる。一方、主な稼ぎ手の所得が高い場合は控除の対象から外し、これら高所得層への増税によって財源を確保する。
現行の配偶者控除は、年収103万円以下の配偶者がいると主な稼ぎ手の課税対象の所得から38万円を引いて税負担を軽くする制度だ。連動して配偶者手当を支給している企業も多く、税の控除と手当を得るために年収103万円以下になるよう働く時間を抑えている人は多い。
いわゆる「103万円の壁」で、当初安倍政権は女性の社会参加を阻んでいる「壁」を撤廃することを目指していた。ところが配偶者控除を廃止すると専業主婦や配偶者がパート勤務の世帯が増税となることから、与党内で慎重論が強く、結局は撤廃を見送って控除の対象となる年収の上限の引き上げに傾いた。
対象の上限を150万円に引き上げると新たに控除の対象となる世帯が増え、それまで103万円以下で働いていた人々も150万円近くまで働くようになるだろう。多くの世帯が控除拡充の恩恵を受けられるようになる。働き手不足に悩んでいる企業は歓迎するかもしれない。
また、高所得の世帯を控除の対象から外して増税すれば、財源の確保ができるだけでなく、結果として格差の解消にも寄与することになる。
ただ、配偶者控除の見直しの議論は、パート世帯の減税ではなく、女性が活躍できる社会を実現するために始まったことを忘れてはならない。年収103万円まで働いていた女性が150万円まで働くようになっても、そのほとんどがパート勤務であることに変わりはないだろう。
社会で働く女性の6割以上が第1子を出産後に離職する。経済や社会を活性化させるためには、資格やキャリアのある専業主婦や短時間勤務の女性が社会の中心で活躍できるようにすることが必要だ。政府・与党の配偶者控除見直し案は、当初の目的とは方向性がまったく違うと言わざるを得ない。
もちろん、子育てや介護で働けない人には手厚い支援が必要だ。やはり配偶者控除は廃止し、それで得られる財源を子育て支援などに回すことを検討すべきである。
配偶者控除は専業主婦が多数派だったころの制度である。さらに拡充するのは時代に逆行している。