性犯罪の新判断 「社会の変化」と最高裁 - 東京新聞(2017年11月30日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017113002000146.html
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強制わいせつの事件をめぐり、約半世紀ぶりに最高裁判例を変更した。「性的意図」がなくとも犯罪は成立すると断じた。性犯罪に厳しい社会の流れ、被害者に目を向けた新判断を評価する。
「知人から金を借りる条件として、女児のわいせつ画像を要求された」と被告が述べた事件だった。女児の体を触り、携帯電話で撮影したが、「性的意図はない」と否認したことが問題になった。
基になった最高裁判例は一九七〇年にある。主文は破棄差し戻しだが、こんな一文がある。
<性欲を刺激興奮させ、または満足させる等の性的意図がなくても強制わいせつ罪が成立するとした第一審判決および原判決は刑法の解釈適用を誤った>
普通の犯罪ならば、「行為」と「故意」によって成立する。だが、強制わいせつには「行為」と「故意」だけでなく、「性的意図」を必要とした。性的意図とは性欲を満たそうとする、いわば心の中の「主観」である。
だが、約半世紀前のこの判決には反対意見もあった。入江俊郎判事である。終戦直後の法制局長官で、日本国憲法の立案責任者だった人物だ。
<相手方(被害者)の性的自由を侵害したと認められる客観的事実があれば、当然に本条の罪は成立すると解すべく、行為者(犯人)に多数意見のいうような性的意図がないというだけの理由で犯罪の成立を否定しなければならない解釈上の根拠は見いだしえない>
今回の判例変更も、これとほぼ同じ論法である。付け加えるならば、「社会の変化」論であろう。
つまり二〇〇四年に強制わいせつなどの法定刑を引き上げた。今年七月にはさらに性犯罪の厳罰化が施行されている。百十年ぶりの性犯罪に関する刑法の大幅改正だった。強姦(ごうかん)罪の名称を「強制性交等罪」と変えたり、被害者の告訴を必要とする「親告罪」の規定を削除する内容だった。
今回の判決は、これらの法改正は「被害の実態に対する社会の受け止め方の変化を反映したものだ」と述べる。つまり「社会の変化」論である。そのうえで強制わいせつの解釈も「被害者の受けた被害の内容、程度にこそ目を向けるべきだ」とした。同意する。
セクハラはもちろん許されなくなったし、ネットの発達で児童ポルノなども拡散し、保護がいっそう必要になっている。国民の処罰感情も高い。判例が社会の変化に対応するのは当然といえる。