性暴力逆転有罪 実態の理解につなげたい - 信濃毎日新聞(2020年3月15日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200315/KP200314ETI090003000.php
http://archive.today/2020.03.16-001434/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200315/KP200314ETI090003000.php

被害の実態に沿った妥当な判決と言える。
19歳の娘に性的暴行を加えたとして父親が準強制性交罪に問われた事件の控訴審判決である。名古屋高裁が、一審の無罪判決を破棄し求刑通り懲役10年を言い渡した。
被害者は中学2年ごろから性的虐待を受けていた。一、二審とも被害者の意に反する性交だったことを認めている。
争点になったのは、被害者が抵抗が著しく困難な「抗拒不能」状態にあったかどうかだ。
一審の名古屋地裁岡崎支部は、抵抗し拒んだ時期もあり、受けた暴力は恐怖心を抱くようなものでないと指摘。従わざるを得ない強い関係とは認めがたいとした。
高裁は、長年にわたって性的虐待を受けた経過を重視。無力感を感じるようになり、意欲や意思をなくし、抵抗できない状態になったと結論づけた。
同じ被害事実を認めながら、判断が異なるのはなぜか。
被害者が置かれた状況を十分に検討したかが重要だ。高裁は、被害者を鑑定した精神科医の証言も取り上げて抵抗できない心理を丁寧にくみ取った。評価できる。
親から性的虐待を受けた場合、子どもは被害を表現できず、家から逃げ出せずに、家族の生活を守ろうと口を閉ざす場合が多い。
被害者が自分を責め深く傷つく一方で、軽く考える加害者が少なくないとの指摘もある。
性犯罪の被害と向き合うには、こうした実態や特性を理解することが欠かせない。
性被害を巡っては、昨年3月にこの件も含めて無罪判決が4件続いた。性暴力撲滅を訴える「フラワーデモ」は、被害者を守れない司法に抗議して始まった。
全国各地に広がり、1年弱で延べ1万人以上が参加した。被害実態を社会に知らせる大きな運動になっている。
国は性犯罪の厳罰化を目的に2017年に刑法を改正した。ただ、暴行や脅迫、抗拒不能といった犯罪の成立要件を残した。今年をめどに状況を検討し、必要があれば見直すとする。
被害者団体は「実態に即していない」として要件の撤廃と、同意がない性交を罰する罪の創設を求めている。一方で「同意がない」ことを悪用されると、冤罪(えんざい)を生むとの懸念もある。
裁判官によって判断が変わるようでは、被害者は救われない。今回の判決を実態の理解につなげ、どんな法整備が必要か改めて議論を始めたい。