性的虐待逆転有罪 同意ない性行為は犯罪だ - 琉球新報(2020年3月15日)

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当然の判断だと安堵(あんど)すると同時に、性被害に対する日本の司法制度には改善が必要だと考えさせられた判決だ。
愛知県で実の娘に中学2年の時から性的虐待を繰り返したとして、準強制性交罪に問われた父親への控訴審判決で、名古屋高裁は無罪とした一審判決を破棄し、懲役10年を言い渡した。
性被害が犯罪として成立するには、暴力や脅迫があり被害者の抵抗が著しく困難な状態であることなどが要件とされ、解釈は裁判官により大きく違う。一審の無罪と控訴審の有罪判決には大きな乖離(かいり)がある。被害者に寄り添い、加害者を正当に罰するには同意のない性行為は犯罪だとするよう法改正を検討すべきだ。
一審、控訴審ともに争われたのは、娘が抵抗の著しく困難な「抗拒不能」の状態だったか、という点だ。抗拒不能の状態とは被害者と加害者の関係や行為の状況を検討した上で、要求に応じる以外の行為を期待するのが著しく困難な心理状態にある場合だ。
一審は、継続的な性的虐待を通じ、父親が娘を精神的支配下に置いていたことは認めたものの、「人格を完全に支配して、服従させる関係だったとは認めがたい」と判断した。必ずしも抗拒不能だったとは言えないとしたのだ。
しかし、高裁は長年にわたる性的虐待そのものが娘の抵抗する意欲や意志を奪っていった経過を重く見た。娘を鑑定した精神科医控訴審で、親から性的虐待を繰り返し受けた子どもは家から逃げ出せず、無力感から抵抗できなくなる傾向があると証言した。
子どもは精神的、経済的にも親に依存しており、家庭内で性被害に遭っても声を上げるのは困難だ。
判決などによると、娘は小学2年ごろから殴る蹴るの暴力を受け続け、性被害から一時的に逃げられた時期もあったが、それ以降はさらに性的虐待がひどくなった。さらに父親から学費を出していることを言われ心理的圧迫も受けていた。「親にペットのように扱われた」という娘の言葉には胸が締め付けられる。
昨年、全国の警察が摘発した児童に対する性的虐待の被害者は248人に上る。家庭という密室で起こる犯罪だと考えれば、この数は氷山の一角だろう。
昨年、この事件を含む4件の性的暴行事件で相次いで無罪が言い渡され、女性たちが行動を起こした。セクハラや性的虐待、性差別がはびこる社会に抗議し、変革を訴える活動はフラワーデモという形で全国に広がった。女性たちが求めているのが性犯罪に対する法改正だ。
現行の強制性交罪などは暴行や脅迫、抗拒不能などの要件を求めるが、密室の犯罪でそれを立証するのはハードルが高い。泣き寝入りする被害者が出る状況になる。基本的には男性も女性も、「同意のない性行為は犯罪」とする、人権を尊重した法改正が必要だ。