令状のないGPS捜査「違法」 最高裁が初めての判断 - 朝日新聞(2017年3月15日)

http://www.asahi.com/articles/ASK3G3DNGK3GUTIL00J.html
http://megalodon.jp/2017-0316-0915-49/www.asahi.com/articles/ASK3G3DNGK3GUTIL00J.html

裁判所の令状なく捜査対象者の車などにGPS(全地球測位システム)端末を取り付ける捜査について、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は15日、「令状が必要な『強制捜査』にあたり、捜査は違法だった」との初めての判断を示した。判決は「立法で対処することが望ましい」とも言及した。

GPS捜査について、警察庁は2006年6月に各都道府県警に通達したマニュアルで、令状なしでも実施できる任意捜査と位置づけ、捜査書類に残さないよう指示していた。昨秋からは令状を得て実施するよう事実上方針転換しているが、各地で争われた裁判で、令状が必要だったかについては判断が分かれていた。

今回判決が言い渡されたのは、車を使った侵入盗などを繰り返したとして窃盗罪などに問われた男性被告(45)の上告審。大阪府警が令状を取らずに被告らの車やバイクにGPS端末を装着して捜査した。一審・大阪地裁は「令状なく実施したのは違法」と証拠の一部を排除しつつ、他の証拠で懲役5年6カ月の有罪に。二審・大阪高裁は令状が必要だったか明確に判断しなかった。

■新技術活用の根拠、立法促す

GPS捜査は、違法な高速走行などで尾行逃れを繰り返す相手への対策として、有効性が高かった。犯罪捜査には一定のプライバシー侵害がつきもので、全く許されないわけではない。新しい技術を使って捜査機関が情報を得ることは、自白重視から客観証拠重視へと変わりつつある刑事裁判の流れにもかなう。

それでも最高裁大法廷は、位置情報を網羅的に把握できるGPS技術の特性を重視。法律に根拠がなければ侵害できない「私的領域」を従前より広くとらえる踏み込んだ憲法解釈を示して立法を促し、捜査機関の乱用に警鐘を鳴らした。

GPSに限らず、メールや防犯カメラ映像など、技術の進歩で個人が様々なデータを残すことは避けられない。憲法で保障された人権を守りつつ、捜査機関は明文化されたルールのもとで情報を扱うことが求められる。(千葉雄高)

■判決のポイント

  • GPS捜査は、個人の行動を継続的、網羅的に把握するもので、プライバシーを侵害する。公権力による私的領域への侵入というべきだ
  • 私的領域への侵入は、憲法35条が保障する「令状なしに家宅捜索や所持品の押収をされない権利」を侵害する。GPS捜査は、令状が必要な強制捜査といえる
  • 車両や罪名を特定しただけでは、容疑と関係ない行き過ぎた行動把握を抑制できない。令状を出すには疑義があり、GPS捜査の特質に合わせた立法が望ましい

■岡部喜代子(学者出身)、大谷剛彦(裁判官出身)、池上政幸(検察官出身)の3裁判官による補足意見

GPS捜査の法律ができるまでには一定の時間がかかるが、その間GPS捜査が全く否定されるべきではない。ただ、認めるとしてもごく限られた極めて重大な犯罪捜査で、どうしても必要な場合となる。裁判官がGPS捜査を認める令状を出すのは特別な事情がある場合に限られ、極めて慎重な判断が求められる。

     ◇

〈GPS捜査と令状〉 警察が民間から借りたGPS端末を捜査対象者らの車などに無断で設置し、行動確認に用いる捜査。警察庁は各都道府県警向けのマニュアルで端末利用を外部に明かさないよう指示。逮捕や家宅捜索などのように事前に裁判所に証拠を示して令状を取得したうえで実施する「強制捜査」ではなく、警察が独自にできる「任意捜査」と位置づけていた。
対象者が端末を発見するなどして相次いで発覚。「プライバシー侵害の違法捜査だ」として問題となった。警察庁は昨年9月から事前に令状を取得する運用に事実上切り替えた。