令状なしのGPS捜査は違法 最高裁が初判断 - NHK(2017年3月15日)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170315/k10010912151000.html
https://megalodon.jp/2017-0315-1607-55/www3.nhk.or.jp/news/html/20170315/k10010912151000.html

警察が裁判所の令状を取らずに容疑者の車などにGPS端末を取り付けて居場所を把握する捜査について、最高裁判所大法廷は「私的な領域に侵入されない権利を侵害するもので強制捜査にあたる」と指摘し、令状がなければ違法だという初めての判断を示しました。さらに新たな法律の整備を求め、これを受け、警察庁はGPS端末を使った捜査を今後控えるよう全国の警察に指示しました。
大阪の45歳の被告が窃盗などの罪に問われた事件では、警察が被告や仲間の車にGPS端末を取り付けて居場所を把握していましたが、裁判所の令状を取らずに実行していたため、違法かどうかが争われました。
弁護側が「プライバシーが大きく侵害されるので、強制捜査にあたり、令状なしで行ったのは違法だ」と主張したのに対し、検察は「尾行などを補助する手段で、令状を取る必要がない任意捜査にあたる」と反論していました。
15日の判決で最高裁判所大法廷の寺田逸郎裁判長は、「GPS端末を使う捜査は本人の意思に反して私的な領域に侵入されないという、憲法が保障する重要な権利を侵害するもので強制捜査にあたる」と指摘し、令状がなければ違法だという初めての判断を示しました。
そのうえで、「今の法律に基づいて捜索令状や検証令状を取っても事件と関係のない行動まで把握されるのは防げない。問題の解消はまずは立法府に委ねられている」などとして、今後もGPS端末を使う場合は、新たな法律を整備するよう求めました。
GPS端末を使った捜査をめぐっては、各地の裁判所で違法性が争われ、結論が分かれていましたが、初めて統一的な判断が示されました。
この判決を受けて警察庁はGPS端末を使った捜査を今後控えるよう、全国の警察本部に指示する通達を出しました。判決によってGPSによる捜査はストップすることになり、警察の捜査は大幅な見直しを迫られました。
最高裁判所の判断について、大阪府警察本部の宮田雅博刑事総務課長は、「判決の内容を踏まえて、個別具体の事案に即して適切な捜査手法を検討していきたい」とコメントしています。
判決について最高検察庁の榊原一夫公判部長は「主張が認められなかったことは誠に遺憾だが、最高裁判所の判断であり、判決内容を踏まえ適切な捜査・公判の遂行に努めたい」というコメントを出しました。
弁護団「最も待ち望んだ判決」
判決のあと、被告の弁護団が会見を開き、亀石倫子弁護士は、「GPS端末を取り付けて捜査を行うには新たな法律が必要だという非常に踏み込んだ判断で、最も待ち望んだ判決だった。今後、科学技術の発達によって新たな捜査手法が出てきて、人権とのバランスが問題になったときには必ず参考にされるようなリーディングケースになったと思う」と話していました。また、被告は、判決について、「捜査が違法だということがはっきりして良かった」と話していたということです。
専門家「プライバシー侵害に厳格な立場とった」
最高裁判所の判決について刑事訴訟法が専門の青山学院大学法務研究科の後藤昭教授は、「GPS捜査を強制捜査だと認定したのは適切な判断で、最高裁判所がプライバシーの侵害に対して厳格な立場をとったといえる」と話しました。
また、最高裁が新たな法律の整備を求めたことについては、「プライバシーの侵害の程度が大きいため、それに対応する特別な条件が必要だと考えたのではないか。法律の解釈を広げず、立法府に判断を委ねるという民主的な立場をとった」と評価しました。そのうえで「個人のプライバシーを探るような捜査は強制捜査だと判断される可能性があることに捜査機関は留意する必要がある」と指摘しました。
官房長官「適切に対応」
官房長官は午後の記者会見で、「判決があったことは承知している。詳細は承知していないが、現在、関係省庁において判決の内容を精査している段階だ。今後、捜査機関においては本判決の内容を踏まえて適切に対応していくことになると思う」と述べました。そのうえで、菅官房長官は、新たな立法措置を検討するかどうかについて、「きょう判決がおりたばかりで、判決内容を今、精査している段階であり、適切に対応していくことになる」と述べました。
被告が受けた捜査は
今回の捜査では、被告や仲間のほか、被告の交際相手が使用していた車なども監視の対象になりました。

裁判の記録などによりますと、警察は平成25年5月から12月まで、被告などが使っていた合わせて19台の車やオートバイの見えにくい場所に手のひらに乗る大きさのGPS端末を取り付け、監視を行いました。捜査では、警察官が携帯電話からインターネット上の専用のサイトにアクセスして、端末の現在地を検索し、画面の地図上に表示された車などの位置を確認していました。位置を自動的に追跡されることはありませんでしたが、被告の弁護士が端末を貸し出した会社から取り寄せた資料などによりますと、位置情報の検索は1分ごとに行われることもあり、3か月ほどの間に1200回以上調べられていた端末もあったということです。

被告らはGPS端末を取り付けられたことを知らず、仲間がオートバイを修理に出した時に初めて気付いたということです。被告は、当時の心境について、「自分の知らないところでどこにいたかをすべて把握されていたので、気持ち悪いというか、ぞっとしました」と話しています。

また、今回の捜査では、警察が、ラブホテルの駐車場やコインパーキングといった私有地に無断で立ち入って端末を取り付けていたことも裁判の中で明らかになりました。被告の弁護士は、警察庁が全国に通知している「犯罪を構成するような行為を伴わないこと」という取り付けのルールに違反していたと指摘しています。これについて被告は、「警察がルールを無視しても、何も間違いではないというのはおかしいと思う。罪を犯した自分の立場では言いづらいが、最高裁には、やってはいけないことはいけないと判断してもらい、今後、捜査で使うときはきちんと法律に基づいて裁判所の許可を取ってほしい」と話しています。

一方、警察は、GPS端末を捜査に使った理由について、被告らが盗難車などを使って広域を移動し、夜間に短時間のうちに犯行に及んでいたことから通常の尾行や張り込みが難しく、今回はGPS端末を使う必要性が高かったと説明していました。
最高裁 判断のポイントは
今回の裁判では、GPS端末を使った捜査が令状が必要な「強制捜査」か、令状を取らずに行える「任意捜査」かが争われました。

これまでに各地の裁判所で言い渡された判決の中には、GPS捜査について、「車は通常、公衆の目にさらされていて、プライバシーとして保護する必要性は高くない」として、「任意捜査」と判断したものもありました。

しかし、最高裁は、「GPSは、公道だけでなく、プライバシーが強く保護されるべき場所でも居場所を把握できる」として、プライバシーを大きく侵害すると判断しました。
そして、「本人の意思に反して私的な領域に侵入されないという、憲法が保障する重要な権利を侵害するもので、強制捜査にあたる」と結論づけました。

さらに、今回の裁判では、GPS捜査が強制捜査にあたるとすれば、今の法律に基づいて令状を取れば捜査が許されるかどうかも争点になりました。
最高裁は、今の法律で定められている現場検証の令状や捜索の令状をGPS捜査に使うのは疑問があるとして、新たな法律を整備するよう求めました。
その理由として、現場検証などの令状を取っても事件と関係のないプライベートな行動まで把握されるのを防げないことや、令状は原則として事前に捜査対象者などに示す必要があるのに、GPS捜査は、性質上、対象者に知られずに行わなければ意味がないことなどを挙げました。
これは今回の審理に参加した15人の裁判官の全員一致の判断で、このうち3人は、「法律ができるまでの間、令状を取って捜査をすることがすべて否定されるべきではないが、極めて重大な犯罪の捜査に限られる」という補足の意見を述べました。