令状なしGPS捜査は違法 最高裁初判断 公正さ守る法整備促す - 東京新聞(2017年3月16日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201703/CK2017031602000134.html
http://megalodon.jp/2017-0316-0952-18/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201703/CK2017031602000134.html

裁判所の令状を取らずに捜査対象者の車両に衛星利用測位システム(GPS)発信器を取り付ける捜査手法について、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は十五日、窃盗事件の上告審判決で「憲法が保障するプライバシーなどの重要な利益を侵害する」として違法とする初判断を示した。その上で、公正な手続きが保障されるよう、新たな法整備が望ましいと指摘した。
最高裁が立法措置に言及するのは異例。GPS捜査は法律の規定がなく、警察は内規で令状の不要な「任意捜査」と位置付けていたが、大法廷は、令状が必要な「強制捜査」だとした。警察庁は同日、GPS捜査を控えるよう全国の警察に通達を出した。今後、法務省は立法に向けた検討に入る。
大法廷は、捜査対象者の保護されるべき権利として憲法三五条が規定するものの中に、プライバシーなど「私的領域」に侵入されない権利が含まれると初めて判示。GPS捜査は個人の行動を継続的、網羅的に把握し、プライバシーを侵害し得るもので「憲法が保障する重要な法的利益を侵害する、令状が必要な強制捜査だ」と結論付けた。
また、捜査の特質上、事前に令状提示できないなど強制捜査に求められる公正な手続きが保障されず、現行のままでは疑問が残ると指摘。「GPSの特質に着目した立法的な措置が講じられることが望ましい」と判断した。裁判官十五人の全員一致の意見。
審理されたのは、二〇一二〜一三年に関西を中心に自動車盗などを繰り返したとして窃盗罪などに問われた大阪府の岩切勝志被告(45)の事件。府警は令状を取らずに被告らの車やバイク計十九台に発信器を取り付け、追尾捜査をしていた。
一審大阪地裁判決は、GPS捜査で得られた証拠を排除し、その他の証拠で有罪と判断した。二審大阪高裁も一審判決を維持し、大法廷は被告側の上告を棄却。懲役五年六月とした二審判決が確定する。

◆適切な捜査努めたい
<榊原一夫最高検公判部長の話> 主張が認められなかったのは誠に遺憾だが、判決内容を踏まえて適切な捜査、公判の遂行に努めたい。

◆GPS捜査判決骨子

  • GPS捜査はプライバシーを侵害する
  • 強制捜査に当たり、裁判所の令状がなければ違法
  • 現行法で定める令状を適用することには疑義がある
  • 新たな法整備が望ましい

◆恣意的な監視に警鐘
<解説> 令状のない衛星利用測位システム(GPS)捜査はプライバシーなどの重要な権利を侵害するとして、現行法では事実上実施できないとした十五日の最高裁判決は、秘密裏に不透明な運用を続けてきた捜査当局の姿勢に警鐘を鳴らした。
これまでの地裁、高裁の判断は、GPSの精度や情報の取得期間、回数などに応じてプライバシー侵害の程度を考慮する傾向があった。最高裁は、個人の行動を逐一把握できるGPS捜査そのものの危険性を重視。「公権力による私的領域への侵入」と位置付け、憲法が保障する権利の侵害だと明示した。
警察は、捜査終了後に容疑者や検察官にも伝えないなどその捜査手法を隠し続け、令状が必要だとしても現行法で対応できると主張してきた。今回の最高裁の判断は、法の定めがない捜査を独自の解釈で恣意(しい)的に進めてきた捜査当局への戒めと受け取れる。
科学技術は日々、進歩する。新たに有効な捜査手法が生み出されたとしても、その実施にはまず、人権とのバランスを保つ適正なルール作りが求められる。 (清水祐樹)