天皇陛下の「退位」特別法 将来の先例にも 有識者会議座長代理・御厨貴氏 - 東京新聞(2016年12月30日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201612/CK2016123002000129.html
http://megalodon.jp/2016-1230-0954-13/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201612/CK2016123002000129.html

天皇陛下の退位を巡る政府の有識者会議で座長代理を務める御厨(みくりや)貴・東京大名誉教授は本紙のインタビューで、今の陛下に限る特別法を定めて退位を認めれば、それが先例となり、将来の天皇に退位の問題が生じた場合も柔軟に対応できるとの考えを示した。具体的な法整備は、皇室典範の付則に、特別法の規定を設ける案が考えられるとの見方も明らかにした。一問一答は次の通り。 (聞き手・木谷孝洋、関口克己)

−政府から会議立ち上げに際して、議論の方向性を示されたのか。
「十月の有識者会議発足の前後で、政府から特別法でという方針は出ていた。政府の会議に呼ばれることは、基本的にはその方向で議論を進めるのだと、個人的には思っていた。私もこの問題は天皇の人権問題で、緊急避難の必要性があると感じていた。ただ、座長代理として予断なく議論をしたことは事実だ」

−七回の会合で方向性を示したのは、議論を急いでいるとの印象を与えた。
「メンバー六人の方向性が違うことはない。なぜ、あのタイミングかと言えば、十四日の議論で、退位は認めた上で法整備は特別法がいいとの議論に傾いた。年を越すに当たり、この点は明確にすべきだと思った」

世論調査では、特別法よりも皇室典範改正で恒久制度化を求める声が強い。
「一度定まった特別法は、次に同様の問題が起きた時に先例となる。特別法も一代限りでおしまいではなくなる。一方、恒久化する場合、どのような要件を盛り込むかが非常に難しい。特別法なら、将来の事態にもフレキシブル(柔軟)に対応できる」

−恒久法の問題点とは
「例として『高齢』が言われるが、例えば八十五歳で退位すると書くと、それが独り歩きする。次の陛下が八十五歳になっても元気であっても、世間的に『八十五歳で定年だね』となり、強制退位となる可能性は十分にある。一方、高齢の要件を入れないと、若いうちにやめたいといった恣意(しい)的な退位を許しかねない。恒久的制度の方が皇位の安定が心配になるとの思いがある」

−専門家十六人に行った意見聴取では、皇室典範の付則に、退位は特別法で定めるとの根拠規定を置くとの案が示された。
「一つの案として有力だろう。皇位皇室典範が定めるとする憲法との結び付きを考えれば、特別法でも典範と関係性を持つ方が良いのではないか」

天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議> 8月に発表された天皇陛下のビデオメッセージを踏まえ、安倍晋三首相の私的諮問機関として設置された。10月17日に初会合を開き、専門家からの計3回の意見聴取を含めて年内に7回の会合を開いた。メンバーは今井敬・経団連名誉会長(座長)、御厨貴・東京大名誉教授(座長代理)、小幡純子・上智大大学院教授、清家篤慶応義塾長、宮崎緑・千葉商科大国際教養学部長、山内昌之・東京大名誉教授の6人。
<みくりや・たかし> 1951年、東京生まれ。東大法卒。専門は近代日本政治史。東京大教授などを経て、現在は東京大名誉教授。口述記録の「オーラル・ヒストリー」の第一人者で、多くの政治家や官僚らから聞き取りを行っている。著書に「天皇と政治」「『保守』の終わり」など。65歳。