(余録)英語圏で最も使われる絵文字(emoji)は… - 毎日新聞(2016年11月18日)

http://mainichi.jp/articles/20161118/ddm/001/070/116000c
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英語圏で最も使われる絵文字(emoji)は何か。大粒の涙を出しつつ笑っている顔文字で、「うれし泣き」の意味である。英国で使われる絵文字の20%、米国で17%がこれだから使用頻度は高い。
先日の小欄で日本から広がった世界的な絵文字人気に触れたが、「うれし泣き」の顔文字は昨年の英オックスフォード大出版局が選ぶ「今年の単語」となった。約60万語を収録する大英語辞典の版元が昨年のコミュニケーションを代表する言葉に絵文字を選んだのだ。
さて問題は今年だが、選ばれたのは「ポスト真実(post−truth)」だった。同出版局によれば「世論の形成において客観的事実が、感情や個人的な信念への訴えかけより影響力に欠けている状況」を示す言葉という。前年比で使用頻度が20倍も増えた単語だった。
英国の欧州連合離脱派が国民投票で勝利するや公約はうそだと明かした一幕や、米大統領選で根拠のない暴言と実現不能の公約とで支持を集めたトランプ氏の勝利を思い浮かべれば理由は分かろう。人々の鬱屈(うっくつ)する不満に応えるうそが真実を打ち負かした今年である。
とくにツイッターフェイスブックによる悪意あるデマの拡散につき「砂ぼこりのようにばかげたうわさが広がる」と評したのはオバマ大統領である。ひとたび自分が聞きたかった虚言に喝采(かっさい)した人々は、それを否定するメディアの方に不信を募らせることになった。
真実の伝え手としてトランプ氏勝利も読み違えた米メディアだが、これでひるむようなことはあるまい。自戒を込めて言う。その存在意義が問われる「ポスト真実」状況のジャーナリズムである。