(余録)「テーブルを見渡してカモが1人も見当たらなかったら… - 毎日新聞(2017年9月26日)

https://mainichi.jp/articles/20170926/ddm/001/070/116000c
http://archive.is/2017.09.26-004611/https://mainichi.jp/articles/20170926/ddm/001/070/116000c

「テーブルを見渡してカモが1人も見当たらなかったら、いったい誰がカモなのかは明白である」。「おまえだよ!」の声が聞こえてきそうなポーカーの格言である。英語ではカモを魚のフィッシュという。
このところ不振をかこっていた勝負師が、ふとテーブルを見渡したら何とカモばかり。ここは大勝負に出るの一手とみたのか。政権復帰以来、国政選挙で勝利を重ねてきた安倍晋三(あべ・しんぞう)首相が狙いすまして打って出た解散・総選挙である。
森友・加計(かけ)問題で落ち目の首相が逆転の勝機を見いだしたのは、政権批判の受け皿になれぬ野党の混迷や選挙態勢の遅れからだろう。北朝鮮情勢の緊迫で支持率も戻す中、超長期政権の扉が開くわずかな一瞬を「今」と踏んだようだ。
だが勝負師ならば東京都議選自民党を惨敗させた小池百合子(こいけ・ゆりこ)知事もいる。あたかも首相の解散表明の当日、希望の党を自ら設立すると宣言、選挙態勢の立ち遅れ挽回(ばんかい)をアピールした。こちらもテーブルの面々を見渡しての名のりか。
もちろん野党もカモ扱いされ、甘んじるわけにいかない。森友・加計問題の追及から逃げ回ったあげくの臨時国会冒頭解散の非を突き、安倍政権の超長期化への国民の拒否反応を掘り起こす構えである。こちらの切り札は選挙共闘か。
公約などはもっぱら後からのつけ足しというこの解散・総選挙、目立つのは勝負師らの駆け引きやはったりばかりだ。この「カジノ民主主義」の賭け金、むろん今後長きにわたる国民の運命にほかならない。