(余録) 毎朝、当日券を求めて長い列ができる… - 毎日新聞(2019年6月16日)

https://mainichi.jp/articles/20190616/ddm/001/070/116000c
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毎朝、当日券を求めて長い列ができる。東京・神保町の岩波ホールで公開中の映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」(全国順次公開)は硬派のドキュメンタリーだが、口コミで評判が広がった。
休憩を挟み上映3時間半。巨大図書館での活動が淡々と紹介される。司書が電話で調べ物の相談に応じる。その数は年間3万件。高齢者にダンス、移民にパソコンを教え、就職案内や障害者向け住宅説明会まで開かれる様子は、「これが図書館なのか」と驚かされる。
合間に映る会議の発言から、創設以来125年守られてきた理念を知る。「図書館は単なる書庫ではない。図書館は人。主役は知識を得たい人々」。目下の難題は、インターネットにつながっていない人々や路上生活者への支援策だ。
講演会も政治的タブーはない。「この国には無神論者が大勢いるのに、それを分かっていない政治家たちは進化論を否定するキリスト教徒たちにこびるだけだ」(「利己的な遺伝子」の著書で知られる生物学者ドーキンス博士)
図書館とは、未知の異なる考えや見方に出合い、世代を超え生涯をかけて学ぶ場、進化し続ける民主主義の学校だった。予算の半分を民間の寄付で運営するからこそ「公共」を名乗る。そこに市民社会の土台を担う強い自負を見る。
「エクス・リブリス」は、本の表紙の内側に「……の蔵書より」と書く時の言葉である。ワイズマン監督は「これは図書館のほんの一部にすぎない」という意味を込めたという。

 


『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』予告編

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