(余録)「米国の民主主義は… - 毎日新聞(2018年11月8日)

https://mainichi.jp/articles/20181108/ddm/001/070/067000c
http://archive.today/2018.11.08-001122/https://mainichi.jp/articles/20181108/ddm/001/070/067000c

「米国の民主主義は権力を委ねるべき人間の選択をしばしば誤る」。19世紀の仏思想家トクビルの言葉である。彼は民主政治には優れた人を選ぶ能力が欠けているばかりか、時としてその意志も好みもないと言う。
すぐさまある人物の顔が浮かんでくる警句だが、トクビルはこうも述べている。「米国人の大きな長所は、失敗を正すことができるところにある」。米国の民主政治の強みは正しい選択をすることではなく、失敗を正せる力にあるのだ。
そこで世界が息をのんで見守ることになった米中間選挙である。むろんこれがトランプ米大統領の2年間への国民の審判となるからだが、結果は全議席の入れ替わる注目の下院選で野党・民主党が8年ぶりに過半数を奪還、勝利した。
トランプ政権の移民政策やリベラル派攻撃が米国社会を真っ二つに分断した中での審判である。歴史的な高投票率がとりざたされるなか、大統領の侮蔑(ぶべつ)的な発言に眉(まゆ)をひそめた女性の票が現代米国の「失敗」を正す力になったようだ。
「大成功だ」とは何とトランプ氏のツイートで、与党・共和党の改選議席が少なかったために過半数を維持できた上院の勝利をアピールしたらしい。だが民主党の下院と政権とは、米国で「分割政府」と呼ばれるねじれ状態に陥った。
国内の政策で手足をしばられるトランプ氏だが、大統領再選の狙いは変わるまい。では大統領権力の大きい外交で今後どんな手に出るのか。取り返しのつかぬ国際政治の「失敗」を考えれば空恐(そらおそ)ろしい。