強行採決発言 撤回ではすまされない - 東京新聞(2016年10月21日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016102102000149.html
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暮らしにどんな影響があるのだろうか−。多くの国民が心配し熟議を求めているTPPの国会論戦。それを強行採決で打ち切ろうというのか。山本農相の発言は撤回してすまされるものではない。
強行採決という形で実現するよう頑張らせてもらう」。衆院の環太平洋連携協定(TPP)特別委員会理事だった福井照議員が派閥の会合でそう発言し、批判を浴びて特別委の委員も辞任したのは先月末のこと。
ひと月もたたないのに、再び「強行採決」発言が飛び出した。それも議論の主要テーマである農業や食の問題を所管する山本有二農相の口から。多岐にわたるTPP合意の具体的な影響、多くの疑問に説明を尽くし、国民の理解を得るのが担当相の責務であるはずだ。発言にはその自覚が全く感じられない。与党の多数を背景にした「おごり」「慢心」というほかない。
そもそも採決方法は国会の専権事項にあたる。閣僚の言及自体が越権で、連立を組む公明党からも「断じてあってはならない発言だ」と厳しい批判が出ている。
TPPの国会審議は始まったばかり。コメ、麦、牛・豚肉など重要五項目や食の安全を守るとした国会決議は破られていないのか。コメの価格に影響しかねない輸入米の調整金問題や、成長ホルモン剤を投与した牛の肉の輸入、遺伝子組み換え食品の表示ルールなど生産者、消費者が不安を抱くテーマが取り上げられており、議論が深まるのはこれからだ。
山本農相の発言は国民の理解、納得を得るどころか、TPPに対する不信感を強めた。野党は民進、共産、自由、社民の四党が農相の辞任を求め、影響は他の法案審議にも広がっている。
発言の背景には、何としても今国会で関連法案を成立させたいという安倍晋三首相の強い姿勢がある。今月二十八日までに衆院を通過させれば、参院での審議が遅れても十一月三十日の会期末までに自然成立するためだ。
安倍首相は十七日の特別委で「わが党は結党以来、強行採決をしようと考えたことはない」と述べたが、昨年の安保関連法案の強行採決を目の当たりにしている国民はどう受け止めただろうか。
私たちは、国民の暮らしに直結する分野で不安を払拭(ふっしょく)できなければ、TPPには反対せざるを得ないと主張してきた。
強行採決などあってはならない。あらためて熟議を求める。