安倍政権 見過ごせぬ慢心と緩み - 朝日新聞(2016年10月21日)

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衆参両院で自民党過半数を握った国会で、安倍政権の慢心と緩みが目立っている。
国会で審議中の環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案について、山本有二農林水産相が18日夜、佐藤勉衆院議院運営委員長のパーティーで「強行採決するかどうかは、この佐藤勉さんが決める」と発言した。
山本氏は発言を撤回したが、審議が始まって間もない時期に強行採決に言及する無神経さにあきれる。それ以上に驚いたのは、行政府の担当閣僚が、立法府議運委員長に強行採決を求めるかのような物言いだ。
権力の乱用を防ぎ、人権を保障するため、国家権力を立法、行政、司法の相互に独立した三権にゆだねる――。山本氏の発言は、そんな三権分立への基本的な理解を欠いている。
立法府軽視としか思えない安倍首相の発言もあった。
17日の衆院TPP特別委員会で「我が党においては結党以来、強行採決をしようと考えたことはない」と述べたのだ。
特別委の理事だった福井照氏が派閥の会合で「強行採決という形で(承認が)実現できるよう頑張る」と言い、辞任したことを問われての答弁だった。
昨年の安全保障関連法をあげるまでもなく、歴代の自民党政権は採決の強行を重ねてきた。「しようと考えたことはない」強行採決をなぜ繰り返すのか。行政府の長として、立法府への敬意が感じられない発言だ。
首相は国会初日の所信表明演説で、海上保安庁、警察、自衛隊をたたえるよう促し、自民党の議員たちが一斉に起立して拍手を送った。
首相は行政府の長であるとともに、自衛隊の最高指揮官でもある。その首相が部下である自衛官らへの敬意を示すよう、立法府の議員に求める。三権分立への感度が鈍すぎないか。
折しも、自民党総裁任期の延長が、わずか1カ月弱、3回の議論で決まった。目立った異論もないまま、首相は2018年の総裁選に3選をめざして立候補できるようになる。
ポスト安倍の有力候補がいないことの表れでもあろうが、首相官邸の意向に背く言動を慎む空気が党内を覆っていることは隠しようがない。
首相官邸の顔色を気にして議員たちが沈黙し、党内議論が活発さを失い、自浄能力が弱まる。それが首相をはじめ議員たちの慢心と緩みを招き、仲間内でしか通用しない言動につながっていく。
それが安倍政権と巨大与党の現状だとすれば、危うい。