入管法案採決 暴挙に強く抗議する - 朝日新聞(2018年11月28日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13787772.html
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安倍政権のもとで国会審議の荒廃は進む一方だ。
外国人労働者の受け入れ拡大を図る出入国管理法改正案の採決が、衆院法務委員会で強行され、本会議でも可決された。
委員会での審議時間はわずか17時間で、過去の重要法案に比べても短い。しかも自民党の委員長の強引な議事運びに抗議した野党議員が欠席し、質疑が行われぬまま時計の針だけ進んだ時間も含めての数字である。
社会のありようを大きく変える可能性をはらむ政策転換だ。中央、地方の双方で公聴会を開くなどして国民合意を丁寧に積み上げるべきなのに、政府与党一体となって突っ走った。
議論の中身も目を覆うばかりだ。受け入れる外国人数の上限や支える態勢などについて、安倍首相は26日の予算委集中審議でも「今後示す」「検討している」を繰り返した。政府に白紙委任せよ、国会など無用だと言わんばかりの姿勢だ。
だが危機感をもつべき大島理森衆院議長は、法施行前に政府に改めて説明を求める考えを示しただけで、衆院通過を容認した。通常国会終了後、森友問題などを念頭に「国民の負託に応える立法・行政監視活動を行ってきたか」との異例の談話を出し、政府と国会に反省を促したのは何だったのか。
与党は日本維新の会との間で法案の修正合意ができたことをもって、採決の環境が整ったとした。だが中身は本質にかかわるものではなく、疑問の解消にはほど遠い。採決に先立って、自民党平沢勝栄・法務委筆頭理事が記者団に「議論したらきりがない。いくらでも問題点は出てくる」と述べたが、この法案、そして審議の欠陥を浮き彫りにした発言ではないか。
押さえておくべきは、野党なども外国人受け入れに反対しているのではないということだ。ただカジを切る以上は、現行の技能実習制度の問題を探り、支援のあり方も含めた全体像を共有して禍根を残さないようにしようという当然の声に、なぜ耳を傾けられないのか。
結局、人手不足を訴える産業界と、外国人に忌避反応をもつ政権の支持層の両方にいい顔をするため、深い議論に入りたくない。そんな思惑が先立っての採決強行のように見える。
安保法制、「共謀罪」法、カジノ法など、熟議を拒み異論を数の力で抑え込む国会運営を、現政権は重ねてきた。今回はその姿勢をさらに強め、話し合いをしようという「ふり」さえ、早い段階でかなぐり捨ててしまった。暴挙に強く抗議する。