週のはじめに考える 富める者には責任が - 東京新聞(2016年7月3日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016070302000133.html
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英国で欧州連合(EU)離脱派が多数を占めた国民投票後、自らの投票を後悔する人が相次ぎました。参院選では「悔いなき一票」を投じたいものです。
「富裕層を優遇するアベノミクスの三年間で一握りの人たちへの富の集中が進んだ」−そんな論戦が先の国会でありました。日本の富裕層上位四十人の保有資産総額は七・二兆円(二〇一二年)から一五・九兆円(一五年)と二・二倍に膨れ上がり、それは全世帯の下位から53%の資産合計に相当する。株高など資産増大には力を入れるが再分配の問題は素通りしてきたのですから当然の帰結です。

◆再分配機能が低下
格差是正は急務です。ではどうすればいいのか。格差が拡大したのは「豊かな人が税金を多く納め、それを豊かでない人に分配する」という、税制が本来持つ再分配機能が低下していることが大きい。まずは「豊かな人が税金を多く納めていない」問題があります。
富裕層の所得は、勤労所得よりも株式の配当や譲渡益などの金融所得がほとんどです。この金融所得にかかる税率は所得税と住民税合わせて一律20%でしかない。このため、税の負担率でみると一億円(申告所得額)をピークに、それより所得が増えるほど負担は減っていく。高所得者ほど負担が軽い逆進性です。
改善するには利子・配当所得の税率を25〜30%に引き上げるべきです。一九八〇年ごろは30%でしたが「株式市場の活性化のため」だとか「貯蓄から投資へ」といった目的で引き下げられた。元の水準近くに戻せば数千億〜一兆円前後の税収増が見込め、負担の公平や格差是正につながるはずです。
あるいはフランスやドイツなどEU十カ国が実施を準備している金融取引税を日本も導入すべきだとの声もあります。金融取引をするごとに税金がかかるので金融機関やファンドなどからの税収が増え、行き過ぎたマネーゲームや投機を抑える効果も期待できる。
税制を納税者自身で決めようと訴える「民間税調」の共同代表、三木義一・青山学院大学長は「最大で年間三兆円もの税収増が見込め、格差を是正するためにも導入すべきだ」と主張しています。

◆世代間の不公平も
こうした改革で豊かな人から多く税金を納めさせたとしても、再分配があるべき形で行われていない問題もあります。経済協力開発機構OECD)は日本の再分配の効果が加盟国中、最低レベルと指摘していますし、むしろ再分配後の方が格差が広がっていると指摘する社会学者もいるほどです。どういうことか。
極端な言い方をすれば「貧しい若者から豊かなお年寄りへ」という矛盾に満ちた再分配になっている。世代間の負担の不公平さが背景にあるのです。
シルバー民主主義といわれる政治の風潮を反映するように、投票率が高い高齢世代の負担は相対的に軽く、逆に低投票率で票を期待しにくい若者世代は重い負担を強いられている構図です。
東京財団の森信茂樹・上席研究員(中央大法科大学院教授)は次のように指摘します。
税(消費税、所得税、住民税)と年金などの社会保険料を合わせた負担が収入に占める比率が年齢によってどう推移するかをみると、二十代の働き始めから負担率は右肩上がりに上昇するが、定年の六十歳を境に大きく下がり、さらに年金生活に入る六十五歳で大きく下がって、その後は低いまま一定となる。
「つまり勤労世代に負担がのしかかっている。今後高齢化が進んでも持続可能なのか、世代間の不公平をこのままにしてよいのか」と疑問を投げかけます。
もはや高齢世代の負担を増やすしかないでしょう。具体的には、年金受給時の公的年金等控除を縮小して税負担を増やしたり、働いて所得がある人は給与所得控除と年金控除の二重控除を見直す、さらに富裕層には社会保険料も現役並みの負担を求めるべきです。

◆投票が将来を決める
今回の参院選から選挙権年齢が十八歳以上に引き下げられ、新たに二百四十万人程度の有権者が加わります。この機会に、不公平な世代間の負担構造を見つめるべきではないでしょうか。
英国の国民投票では、若者の多くがEU残留を求めたのに対し、五十代以上の年齢層は離脱派が多数を占め、結果的に国の将来を担う若者の意見が通らないという皮肉な決定となってしまいました。
自らの投票を悔い、やり直しを求める請願に四百万人もの署名が集まっていますが、国民投票の重さにはかないますまい。
シルバー民主主義か、それとも未来を担っていく若者の声も反映される社会か−一票の重みを大切に考えなければなりません。