(斜面) 公平な課税を追求し、 - 信濃毎日新聞(2019年10月1日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191001/KP190930ETI090003000.php
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この社会の制度をより公平にしたい―。誰しもがそう願っても、複雑に利害が絡む現実社会での実現は難しい。戦後、税金の仕組みの出発点となった「シャウプ税制」は有無を言わさぬ占領下だからできた一つの“理想体系”であろう

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公平な課税を追求し、富の再分配機能をフルに発揮させようとした。提案したのは米コロンビア大教授のカール・シャウプを団長とする専門家7人の使節団。GHQの要請で1949年に来日すると各地を調査し、わずか4カ月で勧告書をまとめ上げた

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今も評価されるのは、実情を踏まえつつ自国ではできなかった理想を込めたからである。地方自治の強化もその一つだ。ところが日本が独立するやいなや骨抜きにされた。富裕税廃止や分離課税導入、優遇措置などでお金持ちや企業の負担が軽くなり、中央集権の流れも強まった

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高度経済成長後は新自由主義の影響で、いっそう再分配機能が衰えた。シャウプ税制の柱である所得税の累進税率がなだらかにされたからだ。「自己責任」「努力が報われる社会」と言い立てて、自由競争を重んじる政策は、格差を広げる方向に働いた

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きょう増税した消費税は30歳、所得税と並ぶ歳入の柱に成長している。高齢社会の下支え役とはいえ、誰にも等しくかかり余裕のない人ほど重く感じる税金である。現代の公平とは何か、原点に戻って真摯(しんし)に議論し、ゆがんでしまった税体系を組み立て直す―。こんな願いは夢物語なのか。