「まず投票 そこから始まる」 「明るい選挙推進協会」会長・佐々木毅氏に聞く - 東京新聞(2016年6月21日)

2016年6月21日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201606/CK2016062102000125.html
http://megalodon.jp/2016-0621-0930-54/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201606/CK2016062102000125.html

二十二日に公示される参院選は、十八歳、十九歳の約二百四十万人が新たに有権者に加わる。その一方、最近は国政選挙の度に低投票率を記録。民主主義の危機が指摘されている。元東大学長で、選挙の普及啓発を行う「明るい選挙推進協会」会長の佐々木毅氏に、選挙の意義と、どうして大切なのか基本から聞いた。 (聞き手・金井辰樹、安藤美由紀、山口哲人)

−そもそも選挙は、なぜ重要なのでしょうか。
「国民と政治との関わり方の中で、一番正式の制度は、選挙です。選挙で選ばれた代表者を通じて政府への信頼感が与えられ、政府が行う政策の正しさに根拠が与えられるのです」

憲法前文が、選挙で代表者を選ぶことによる国民主権の記述から始まることからも重要さが分かりますね。
「選挙について考える時、一回ごとの選挙と、サイクルとしての選挙。二つの観点が必要です」

◆約束は守られたか
−サイクルとは。
「政党側が前回の選挙でした約束は守られたか。前回の選挙でいい政策だと思ったものは結局どうだったか。そういう流れでみることです。選挙で政党や政治家が重要な役割を果たすのは当然ですが、選挙のサイクルを回すのは主権者である有権者です」

参院選衆院選と違い、直接政権を争うものではない。特に今回は、判断の基準が難しいという声もあります。
「政党の公約を見ても、ほとんどメッセージとして意味を持たない。今の政党は隠蔽(いんぺい)する能力で成り立っている。消費税増税の延期の問題など、争点をなくす共同作業をやっているようにさえみえます」

マニフェスト政権公約)を軸に具体策を示そうという時期もありましたが。
「それが崩れてしまった。これでは白紙委任型政治です。戦後、長く続いた自民党政治は、一定の枠内での白紙委任政治をやってきましたが、今はそれがいろいろな問題にまで広がっている」

−「十八歳投票」と前後して若者が政治参加する動きが目立ってきた。
「『選挙権が来ちゃった』という衝撃を受けスイッチが入った部分があるのでしょう」

◆不安感があるなら
−一方で選挙権を負担と感じる若者もいる。
「そういう人への僕のメッセージは単純。『とにかく投票に行け』です。行かない理由は千も万も見つかるが、いちいちそれをつぶしている時間はない。行くと決めることから、すべてが始まる。若い世代はこの先、夢のような世界が来るとは思っていない人が多い。社会保障や財政を知らなくても、ぼんやりと将来に不安感があるのなら、とにかく投票に行ってほしい」

−自分の投票に後で悔いることになっても…。
「それでもいい。それが次の選挙への種になる。種をまかないで植物は生えない。ただ、次の選挙の時にチェックできるように、投票用紙にどう書いたのか、覚えておいてほしい」
−それが選挙によって民主主義のサイクルを回すことにつながるのですね。
「投票は自分を追い込み、決断すること。政治家にとって意味のある有権者は選挙に来る人。投票しない有権者は、どうでもいいとみられている。無視されるのはやはり癪(しゃく)ではないのか。投票権という機会を見過ごすのか。迷いに迷っても投票するのが大事です」

<ささき・たけし> 政治学者。公益財団法人「明るい選挙推進協会」会長。東大学長を務めた後、2005年に東大名誉教授。元学習院大教授。1993年から昨年12月まで、本紙「時代を読む」欄に執筆。プラトンなどの政治思想研究を基盤に現代政治の分析でも顕著な研究業績を上げ、昨年度の文化功労者に選ばれた。日本学士院会員。秋田県出身。73歳。
◆18、19歳240万人 影響力は
選挙権年齢の引き下げによって有権者の仲間入りをする十八歳、十九歳は約二百四十万人。全有権者約一億四百万人の2%程度だが、その影響力は過去の参院比例代表に照らせば、二人を当選させることができるほどの「数」になる。
前回二〇一三年の参院選比例では一議席を得た社民党の得票は約百二十五万票だった。前々回一〇年は約百二十三万〜約百十七万票のたちあがれ日本新党改革の両党がそれぞれ一議席を得ている。約二百二十四万票の社民党は二議席を確保した。
都道府県別の人口と比べても、二百四十万人は宮城、新潟両県に匹敵する。十八歳、十九歳が同じ政党や候補に投票するわけではないが、政治の側が無視できない数だ。
一四年十月の人口推計によると、最も人口が多いのは六十五歳で二百二十万人超。人口だけでなく、投票率も六十代は前回参院選で約68%だった。二十代は約33%にとどまる。若者の声を政界に反映させるには、投票率を向上させる必要があるのは確かだ。