週のはじめに考える 有権者となる君たちへ - 東京新聞(2016年6月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016061902000150.html
http://megalodon.jp/2016-0620-0907-48/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016061902000150.html

投票所に足を運ぶことは面倒でも、その一票で暮らしや未来が決まるとしたら、何だか自分が頼もしく思えてきませんか? きょうからあなたも有権者
二十歳になって初めて投票所に出掛ける自分に、母親が声を掛けたことを思い出しました。
「立会人の人には、きちんと、あいさつしなさいよ」
立会人とは、選挙が公正、確実に行われるよう監視する人たちです。投票所が置かれた地元町内会の役員が務めることが多いようです。母親に言われた通り、ぺこりと頭を下げ、投票用紙を投票箱に入れました。

参院選が初の国政選
三十三年前の参院選です。当時の新聞を読み返すと、全国区に代わって比例代表制が導入され、前年発足した中曽根内閣に対して初めて国民の審判が下される選挙、だったようです。
政治には多少、関心があったはずですが、恥ずかしながら、何が争点だったのか、どの政党、候補者に投票したのかさえ、全く記憶にありません。でも、社会の一員として認められたという実感だけは、はっきりと覚えています。
改正公職選挙法がきょう施行され、選挙権年齢が「二十歳以上」から「十八歳以上」に引き下げられました。今月二十二日に公示され、七月十日に投開票される参院選は、十八歳以上が有権者として一票を投じる初めての国政選挙となります。
二十歳になった人に加えて、十八歳と十九歳の約二百四十万人が新たに選挙権を持つことになります。全有権者の2%です。まずは「おめでとう」と言いたい。
実は、若い人たちを頼もしく感じた世論調査があります。共同通信社が、六月末までに十八、十九歳になる千五百人を対象に郵送方式で行ったものです。回収率は55・1%でした。

◆投票こそ変える力に
それによると、参院選の投票に「必ず行く」「行くつもりだ」と答えた人は合わせて56%に上り、「行かないつもりだ」「行かない」は計12%にとどまりました。
高齢者に比べて若い人たち投票率は低い傾向にあります。二〇一三年の前回参院選で、六十歳代の投票率が67・56%だったのに対し、二十歳代は33・37%にとどまっています。過去の国政選挙も同様です。
若い人も高齢者も年齢に関係なく同じ重みの「一票」です。せっかくの権利ですから、使わないなんてもったいない。
投票に行くであろう56%の人は確実に、行かないつもりの12%の人も、「今はよく分からない」と答えた32%の人も、思い直して投票所に出掛けてみてください。
日本の社会保障政策は、高齢者層重視と指摘されてきました。例えば年金、医療、介護です。その半面、子育て支援や教育など、若い人たちへの対策が手薄となってきたことは否めません。
高齢者を敬う日本の美徳や、若者は苦労して当たり前という先入観が背景にあるのでしょうが、それだけではありません。
高齢者はもともと人口が多く、投票率も高い。政党や候補者が、こうした「票になる」人たちの意見に耳を傾けるのは当然です。若者向けの政策は「票にならない」として軽視されてきたのです。
ですが、投票に行っても何も変わらないとあきらめるのはまだ早い。この調査では「投票することで政治に影響を与えることができると思いますか」との問いに59%の人が「与えることができる」と答えています。その通りです。
若者たちがもっと声を上げ、投票に行くようになれば政党や候補者も若者の意見に耳を傾けざるを得なくなるのです。
気になるのは「日本の政治家を信用していない」と答えた人が74%にも達していることです。
大臣室で業者から札束を受け取った国会議員や、政治資金問題で辞職に追い込まれた都知事の話を聞けば、信用できないのも無理はありませんね。大人たちも自戒しなければなりません。

◆先人の苦難に思いを
きょうからは十八歳以上の全員が有権者ですが、ここに至るには長い歴史があります。
当初、選挙権があったのは多額の税金を納めた二十五歳以上の男子だけでした。その後、男子には納税額にかかわらず選挙権が与えられましたが、女子が有権者となったのは戦後のことです。
明治期の自由民権運動をはじめ普通選挙運動、婦人参政権運動などの成果ですが、その道のりは決して平たんではなかった。選挙権は、先人たちが苦難の末に勝ち取ってきた大事な権利なのです。
そのことにも思いをはせて投票所に足を運んでみてください。今も昔も一歩踏み出す勇気こそが、社会を変える原動力なのです。