(筆洗)現金授受問題で刑事告発され、嫌疑不十分で不起訴処分となった - 東京新聞(2016年6月7日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016060702000122.html
http://megalodon.jp/2016-0607-0949-31/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016060702000122.html

当時は古くて、みすぼらしい議員宿舎だった。一九九二年の冬だったか。一室のチャイムを押すと、当選回数も浅い若い国会議員が顔を出す。部屋に上がってもいいが、話はちょっと待ってくれという。
何事かと思えば、テレビドラマを見たいという。新米記者の身である。付き合うしかない。二人の男が宿舎でドラマを黙って見る。奇妙な光景である。
ドラマの中でベテランの国会議員がゴルフ場の建設に絡み、怪しげなカネを業者からもらっていた。この議員の長男でもある公設秘書は悩み続ける。自分もいずれは父親の後を継いで政治家になりたい。それでも、こんなことを許していいのか。秘書は迷った末に父親の不正を告発する。そんな筋だったか。
テレビの前の議員を盗み見て、うろたえる。目を潤ませている。理由は分からない。議員は黙ってテレビを消し、こちらは記事にもならぬ国会の見通しを聞き帰った。二十四年前の寒い晩である。
話はこれでおしまいである。付け加えるとすれば、議員のその後か。当選を重ねた。出世した。そしてあのドラマではないが、現金授受問題で刑事告発され、嫌疑不十分で不起訴処分となった。
昨日、政治活動を再開したと聞いた。人間らしくまっとうに生きよう。そう語る青臭いドラマの題名を思い出した。「愛という名のもとに」。あの夜を思い出すことはあるだろうか。