(余録)けちを俗に「六日知らず」という。日にちを… - 毎日新聞(2016年6月7日)

http://mainichi.jp/articles/20160607/ddm/001/070/159000c
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けちを俗に「六日知らず」という。日にちを勘定するとき1日、2日……と指を折って、5日で握りこぶしとなる。一度握ったら放さないから6日以上は数えられない。吝(りん)嗇(しょく)を笑う落語のまくらだ。
けちが噺(はなし)のたねにされるのは寄席のお約束で、金を払ってまで噺を聞く客にけちはいないわけだ。逆に言えば、客は金を払っても吝嗇家を笑いたいということか。今なら寄席に行かなくても、しばしば開かれる記者会見で自分の金を使いたがらない知事の話を聞ける。
で、今度は政治資金の私的流用疑惑の調査を依頼した弁護士同席で会見にのぞんだ舛添要一(ますぞえよういち)東京都知事だった。「極めて恥ずかしい行動をとってきた」とは「第三者」とされる弁護士の調査結果を受けての知事の反省だが、さてこれで客席、いや都民は納得するのか。
美術品や書籍の購入、家族同伴のホテル代、自宅や別荘周辺の飲食といえば、この間の報道で今やあれこれ具体的な支出が頭に浮かぶ方も少なくなかろう。調査報告ではそれらについて政治資金の支出として「不適切で是正が必要」という言葉が何度もくり返された。
何しろ庶民感覚からしてもちまちました流用疑惑だ。知事にすれば「違法でない」とのお墨付きが得られれば、しのげると踏んでいよう。だがこの手の公私混同が寄席の小噺のたねのようにされ、ここまで世人の興味と関心を盛り上げた現実を見くびってはいけない。
中国の古い字典によれば「公」という字の「ム」はものを私することで、「八」はそれに背を向けることという。きょうから議会の代表質問を受けて立たねばならない東京都の「公人」トップである。