(筆洗)「カツカレーの乱」 - 東京新聞(2018年9月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018092302000141.html
https://megalodon.jp/2018-0923-1151-46/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018092302000141.html

教室の中で何かがなくなったとする。誰かが取ったにちがいない。先生が命じる。よし、みんな目をつぶれ。心当たりのある者は手を挙げなさい。
書いていてあまりいい気分がしないが、子どもの時、こういう居心地の悪い場面に出くわしたことのある人は少なくないだろう。「千鳥」の漫才だと、子どもが正直に手を挙げると、先生が大声でその子どもの名を呼んでしまう。
「私は悲しい。この中でカツカレーをただ食いした人がいる。心当たりのある議員は正直に手を挙げなさい」。子どもじみた場面をつい想像するが、安倍首相としては本気でそんな犯人捜しを考えているかもしれぬ。先の自民党総裁選。なんでも投票直前の安倍陣営の決起集会で出されたカツカレーの数と投票での国会議員票が合わないそうだ。カレーの数より得票数が少ない。
お分かりだろう。決起集会で安倍支持のふりをしてカレーを食べておきながら実際は安倍さんに票を入れなかった議員が何人かいたという。「カツカレーの乱」とでも呼びたくなる。
派閥のしがらみや人事での報復をおそれて、安倍支持を装っていても腹の中では安倍さんの言動や一方的な主張に別の感情もあるのだろう。皿と合わぬ議員票数は安倍一強の壁に走った小さな小さな亀裂か。
大勝と強調する安倍陣営だが、カレーの一件に、実は「辛勝」ではとまぜっ返したくなる。