(筆洗)作家の永井荷風が軍国主義に染まっていく世の中の変化について書いている - 東京新聞(2018年4月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018041902000136.html
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作家の永井荷風軍国主義に染まっていく世の中の変化について書いている。「際立って世の中の変わりだした」のはいつか。それは「霞が関三年坂のお屋敷で白昼に人が殺された」あたりからだろうという。
三年坂の殺人とは一九三二(昭和七)年、犬養毅首相が首相官邸青年将校に暗殺された五・一五事件である。そこからの大きな変化を「誰一人予想できなかった」。時代の変わり目はその時点では気がつかぬものか。
この話に五・一五を大げさに持ち出すのをためらう。なれど、いつか振り返ったとき、その罵声が時代の変わり目だったということにならぬかを心配する。幹部自衛官が十六日夜、国会近くの路上で民進党国会議員に向かい「おまえは国民の敵だ」などと罵声を浴びせかけた問題である。意に沿わぬ政治家への脅し、圧力と言わざるを得ない。イラク日報問題などでの自衛隊批判への不満だろうか。しかし、国民が選んだ国会議員への罵声はそのまま国民への罵声である。その行為によって、どちらが、「国民の敵」になってしまうかにどうして気がつかなかったか。
厳正な処分と対策が必要である。今回は一人だった。これが二人、三人にならぬとは限らぬ。今回は声だった。これが拳やナイフに変わらぬとは限らぬ。
「四・一六事件」。後になってあれが時代の変わり目だったと考え込んでみても遅い。