会期末の国会 議論不発で参院選へ - 朝日新聞(2016年5月18日)

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この国会で最初で最後となるだろうきのうの党首討論で、焦点となったのは憲法改正と消費税率引き上げの是非だった。
安倍首相は在任中の改憲に意欲を示してきた。では、具体的にどう進めていくのか。その点での首相の発言には首をかしげざるを得なかった。
首相はきのうも「大切なのは国会の憲法審査会で議論することだ」と繰り返した。ところが、自民党は今国会では衆院憲法審査会では実質審議は行わず、参院参考人質疑が1回行われただけだ。
参院でも3分の2の改憲勢力を確保したい一方、憲法にばかり光があたれば、選挙で不利になりかねない――。自民党憲法審査会での議論を封印した背景には、首相の意欲とは矛盾する自民党のジレンマがある。
きのうの討論で民進党岡田代表は、集団的自衛権の行使に制限をつけない自民党の9条改正草案は、現憲法の平和主義に反すると指摘した。首相はこれには直接答えず、民進党も改正草案を出さなければ議論のしようがないと批判した。
首相のこの論法には賛同できない。「9条を当面変える必要はないと思うから案はない」という岡田氏の方が正論である。
一方、来年4月に予定されている消費税率引き上げについて岡田氏は「消費が力強さを欠く中、先送りせざるをえない状況だ」と明言した。岡田氏は、19年4月には10%に上げるとしたうえで、それまでの間に必要となる社会保障の充実策の財源には赤字国債をあてるという。
参院選をにらみ、自民党内でも先送り待望論が強い。そうしたなか、先送りをすべきかどうか、いつ表明するかに苦慮する首相の機先を制したいということなのだろう。
だが、消費増税で負担増を広く分かちあおうという「税と社会保障の一体改革」の3党合意は、旧民主党も当事者だ。
一時的にせよ赤字国債に頼る姿勢が財政規律を失うことにつながらないか、議論が足りないまま、唐突に先送りを表明したのは理解に苦しむ。
この国会を通じて、与野党の論戦は総じて低調だった。
安保法制施行に伴う自衛隊への任務追加も、政府が参院選後に先送りした結果、議論は乏しかった。熊本地震の影響もあったにせよ、環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案は継続審議となる。
参院選でいかにマイナスにならないように振る舞うか。そんな目先の思惑を見せつけられた感の強い国会である。