自公20年と安倍政治 「平和主義」の正念場だ - 東京新聞(2019年10月5日)

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自公連立政権の発足から二十年。安倍晋三首相はきのうの所信表明演説憲法改正論議を促した。戦後日本の「平和主義」は堅持できるのか、正念場だ。
臨時国会がきのう召集された。七月の参院選後、与野党が本格的に論戦する初めての国会だ。
政府は法案十五本と日米貿易協定の承認案などを提出し、与党は協定承認や改憲手続きを定めた国民投票法改正案の成立を目指す。
参院選後、消費税率が10%に上がり、関西電力役員らの金品受領や「あいちトリエンナーレ」への補助金不交付、台風15号への初動対応などの問題も噴き出した。

◆9条改憲を促す首相
法案や条約の審議はもちろん、国政の調査や行政監視の機能という国会に託された役割を、与野党ともに誠実に果たすべきである。
首相は所信表明演説で、戦後復興や高度成長を実現し、「平和で豊かな日本を、今に生きる私たちに引き渡して」くれた先人たちの歩みに「心から敬意を表し」た上で「わが国の平和と繁栄は、必ずや守り抜いていく」と強調した。
日本人だけで三百十万人という犠牲者を出し、日本が侵略した近隣諸国や交戦国にも多大な犠牲を強いた過去の戦争への反省から、戦後日本は戦争放棄と戦力不保持の憲法九条の下、「専守防衛」に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、平和国家としての道を一貫して歩んできた。
首相が、そうした歩みをも守り抜く決意を表明したのであれば、評価もできよう。
しかし、首相は演説終盤でこうも語っている。「令和の時代の新しい国創り」の「道しるべは、憲法です。令和の時代に、日本がどのような国を目指すのか。その理想を議論すべき場こそ、憲法審査会」であり、「しっかりと議論して」「国民への責任を果たそうではありませんか」と。

集団的自衛権を容認
要は、平和主義の堅持よりも、憲法改正論議を促すことに演説の主眼があったのである。
自民党憲法九条への自衛隊明記や緊急事態対応、参院選での合区解消、教育充実という改憲四項目を提示しており、十二月九日までの臨時国会会期中に衆参の憲法審査会で自由討議を開き、四項目の改憲案を説明する構えだ。
このうち首相が自民党長年の悲願とするのが九条改正だろう。
七月の参院選では、与党と日本維新の会などを合わせた「改憲勢力」は改正発議に必要な三分の二を参院で割り込んだが、首相は改憲を目指す姿勢を変えていない。
自民党が衆参両院の選挙で改憲を訴え、政権を維持し続けているのだから、改憲は国民に支持されているというのが首相の論法だ。
首相の自民党総裁としての任期は二〇二一年九月と二年を切っており、レガシー(政治的遺産)づくりのために、与党多数という政治的資産を改憲に注ぎ込もうとしているのかもしれない。
カギを握るのは、自民党とともに二十年間、政治的な歩みをともにしてきた公明党の対応である。
公明党が自民、自由両党の連立政権に参加したのは一九九九年十月五日。きょうで二十年になる。〇九年衆院選旧民主党に政権が移ったが、自公両党は野党時代も協力関係を維持し、一二年の政権復帰後に再び連立を組んだ。首相は「風雪に耐えた」関係とする。
九九年の連立発足当初は自民党参院選敗北で「ねじれ国会」となり政治が不安定な時期だった。金融危機も重なり、自公連立が政治や経済の安定に一定の役割を果たしたとはいえる。
しかし、政治の安定が、特に安倍政権発足以降、強引な政権や国会の運営につながったことも事実だ。例えば「知る権利」や人権が著しく脅かされかねない特定秘密保護法や、安全保障関連法、「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法の成立である。
公明党側には、前のめりになる自民党や安倍政治の「歯止め役」を果たしてきたとの自負があるのだろうが、圧倒的多数の自民党を前に政策的妥協を強いられてきたのもまた、現実である。

専守防衛を覆さぬか
歴代内閣が禁じてきた「集団的自衛権の行使」を一転認めた閣議決定と安保法はその典型だろう。そして公明党に再び突き付けられているのが改憲論議である。
必要な条項を加える「加憲」の立場の公明党は、改憲論議自体は否定していないが、九条改正論議は「平和の党」を掲げてきた公明党の根幹を揺るがしかねない。自衛隊明記が、戦後日本が堅持してきた専守防衛政策を根底から覆す恐れなし、とは言えないからだ。
公明党が「地に足の着いた平和主義」を貫き、日本は平和国家の道を歩み続けられるのか。自公連立の二十年は問い掛けている。